理屈じゃない

□動悸息切れの理由
1ページ/1ページ


黒羽はじっと天根の顔を見詰めていた。時折眼を細めては首を傾け、唸る。その不可解な行動に、天根はとうとう耐えられなくなり声を上げた。

「さっきから何バネさん!」
「え?あぁ…いや、でも」

黒羽は答えになっていない応えを返し、また天根の顔を、今度は値踏みするように見た。
天根は何も言えず閉口して、黒羽の瞳から逃れるように顔を逸らした。
黒羽にそういった気がなくとも、見詰められると困ってしまう。天根が黒羽に惹かれているのは確かなのだから。黒羽の過剰な程のスキンシップは、嬉しいが地獄だ。意識しているのは天根だけ、その事実はただ天根の心にじとじととした湿気のようなものを繁殖させていく。

「うん、解った」

不躾な視線に晒されることからやっと解放され、天根は大きく息を吐いた。悪いことをしていないのに尋問されている気分だった、と言ったら言いすぎだろうか。満足そうに笑った黒羽の笑顔に内心下を巻きながら、天根はやっと答えを求めることを許されたのだ。

「何、さっきから殺気が」
「うっせ!つまんねぇんだよこのダビデが!!」
「バネさんタンマ!」

見事な回り蹴りを必死の思いで避け、天根はそのまま近くにあったパイプ椅子に腰を下ろした。それを見た黒羽も少し遠くにあった椅子を引寄せ座る。ギシリと錆びた音が小さく響いた。

「クラスの女子がさ、テニス部の話してたんだよ」
「…盗み聞き?」
「違うっつの」

ムッとしたように返され表面には出さないで焦る。きっと本気で怒らせてしまったら、天根にはどうすることもできないだろう。許しを請う言葉さえ音にすることが出来ず立ち尽くしているに違いない。
そんな天根の内心に気付いては居ないのだろうが、黒羽はにかりと大きく笑った。それだけで救われた気がした。

「サエは王子様系なんだと。王道の美形だな。で、お前も格好いいんだってさ」
「確かめてたの?」
「だってな、いつもダブルス組んでるけど、サエなら解るがお前が…、と思って」
「…答えは出た?」

天根の問いに、黒羽はじっと天根の顔を見詰める。そんなに見詰められたら穴があく。そう思った。

「格好良かった」

にっこりと、太陽のように眩しく笑って、喋らなければ、と余計な一言を付け足す。しかしそんなのは気にならなかった。行くか、と背を向けた黒羽の後も追えない。
そんな顔で笑われたら、胸が苦しいよ。きゅうと胸が痛んで、天根は机に手をかけたまま蹲まった。
黒羽の背中は、もう見えない。パタンと音をたてて黒羽と天根を遮ったドアが憎たらしい。
息が苦しい、鼓動が煩い。でもほら、あんたは気付かない。






動悸息切れの
理由




ダビバネ。こいつらは青春してると思う。
さすが海育ち(違)
ダビがバネ大好きっこだったらいいと思う。










[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ