理屈じゃない

□敵情視察中
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ざああぁと、まるで誰かが噎び泣いているような雨に辟易としたように、亜久津は読んでいた雑誌を脇に投げ捨てた。欠伸を噛み殺して窓の外を見る。当分収まりそうもない雨粒は、窓を打っては幾つもの流れとなって視界を滲ませた。そんな中ふと眼に付いたのは、深い青色の傘だった。そしてそれには見覚えがあり、一体何処でだっただろうかとぼんやりとする思考で思う。大量生産の安い傘など何処ででも見られるというのに、だ。
ピンポーン、と知った機械音が思考を妨げたが、それが逆に亜久津に答えをもたらすこととなった。訊ねてきたのはあの傘の持ち主だろう。確信めいた想いは亜久津の中に妙にすんなりと落ちていって、小さく舌打ちをした。

「あ、やっぱり居た」

開口一番にそれを笑顔で言い退けた幼馴染みを睨み付けて、亜久津は体を捩る。そうしてしまってから、それが無意識のうちに河村を部屋に上がるよう促していたと気付き、亜久津は忌々しそうに顔を歪めた。それに気付いていないのか気付いていないふりをしているのか、お邪魔します、だなんて亜久津以外には誰も居ない部屋に向かって礼儀正しく言って部屋に上がり込んだ。傘立ての下は既に水が広がっていた。

「何の用だよ」

低い声で問えば、河村は別に、とさらりと言って笑う。邪魔だったかな?と眉を下げて言うのに、亜久津は小さく唸ることしかできない。それに淡く微笑んで、河村は先程亜久津が投げ捨てた雑誌を拾った。音楽雑誌だった。
見ても良い?と聞かれたので勝手にしろと返す。興味があるのか、と聞こうか迷ったが、結局聞かなかった。雨の音が、小さくなったのが解った。
どうしてこんな雨の中、たいしたようもないのに来たのだろう。河村は昔から亜久津には不可解な行動を屡々取る。それに一々振り回されるのはごめんだったので、最近はやりたいようにさせていた。
甘い、と自分でも思う。だがどうしてか邪険に出来ないのも事実なのだ。眺めるように頁を繰る河村の横顔を見ながら思った。こいつは、何をしたいのだろう、と。
亜久津の視線に気付いたのか、河村が顔を上げる。眼があって、咄嗟に逸らそうとしてしまった自分に心の中で舌打ちをして、真っ向から河村を見た。睨み付けた。河村は怯えたりしない。ただ困ったように眉を下げ微笑する。その意図が、解らなくて苛々する。

「土産の一つもねぇのかよ」
「え?あ、ごめん…」

てめぇがどういうつもりなのか知らねぇけどよ。
亜久津の皮肉気な口調に少し慌てた風の河村の首裏を引っ張って、引き寄せた。


「馬鹿な奴」


一瞬だけ重ねた唇。間抜け面の河村。妙に気分がすっきりした。
てめぇが手の内見せねぇんだったら、こっちから仕掛けてやってもいいんだぜ?







敵情察中




アク→←タカ?
あっくんが一人妙に意識しちゃってる感じで。








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