理屈じゃない

□故意じゃない、恋なんかじゃない
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いつの間にか視界に入っている、あいつの姿。
知らんうちに勝手に俺の断りもなく俺の視界に入ってきては、俺を不快にさせる。


(大体、古いんじゃよ)


古風を否定するわけではないが、あまり縁のない仁王は小さく舌打ちをした。買い食いが悪いなんて、何時の人間だ。今はみんな平気でしとう。コートに響いた怒声に、仁王は溜息をついた。
何をそんなに何時も怒っているんじゃろ。仁王にはそれが理解できない。他人にそれほど強い興味もなく、放っておけばいいのに、と思う仁王にはきっと一生理解出来ないのではないのだろうか。
怒鳴られた後輩が、情けなく眉を下げて我らが副部長に謝罪をする。真田はやっと瞳を和らげて、解ったなら良い、と言った。それに対し切原が表情を明るくして真田に抱きつく。仁王それを離れたところから見詰めていた。
風が凪ぐ。心には風が吹き荒れているというのに。
何故、と考えるのも億劫だった。うっすらと原因は解っていたが。真田が真っ直ぐすぎるからだ。切原が素直すぎるからだ。仁王にはないものを二人が持っているからだろう。
微笑ましいであろうその様子をじっと見詰めていた。ふと真田が視線をあげ、仁王に気付く。眼がしっかりとあってしまって、仁王は息をするのを忘れた。
本当は、ほんの一瞬だったのだろう。しかし仁王にはとても長い時間に感じられた。あの意志の強い漆黒の瞳が仁王だけを映して、仁王もまた真田だけを映した。取り込まれてしまうのではないかと思う反面、こんな薄汚れた自分など吐き出されてしまうだろうと考える思考が悲しい。仁王は真田の眼が逸らされた後も、真田から視線を外すことが出来なかった。
いつの間にか視界に入っている、真田の姿。
知らんうちに勝手に俺の断りもなく俺の視界に入っているのではなかった。
どきどきと普段の倍近く煩い心臓を抑えようと胸付近のシャツを握りしめたが、無駄だった。
何じゃ、不快でも、ない。ただ、羨ましいだけと?


「こら、仁王!なにをさぼっている!!!」


怒りの矛先が仁王に向き、らしくもなく肩を揺らした。驚いた、のだ。そして嬉しかった。
まだ真田が俺を怒ってくれるなら、まだ大丈夫。真田の中にまだ仁王は居るということになる。だって、居なくなってしまったなら、真田は仁王に注意することなどないだろう。存在の消滅。本当に怖いのはこれだ。

「今、行く。そう怒鳴らんでも聞こえてるけん、そう肩に力を入れなさんな」

軽く受け流すようにいって、内心笑った。怖いくせに。俺は何処までも、そう、自分にまでも嘘つきじゃ。
お前の中から消えないように、今日も俺はお前の姿を探してしまう。






故意じゃない、
なんかじゃない




23でも32でも読める。
2が3に下手惚れだったら良い。








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