捧げ物
□やきもちやき
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*やきもちやき*
「来ない…」
放課後の教室で一人呟いたのは美鶴。
いつもだったら『一緒に帰ろう!』と言いながら迎えに来る亘が来ない事に、苛立ちに似た感情を抱き始めていた。
読んでいた本を閉じて立ち上がり、亘のクラスへと向かう。
「…亘、いるか?」
小さく呟きながらドアを開ける。
亘は教室にいた。何人かのクラスメートと共に。
「それでさ、卵の……」
「バッカだなー…」
「あ、ひどい!」
人の輪の中心で、亘は明るい笑顔を見せている。美鶴の大好きな表情。
美鶴は入口に立ったまま。
誰も気付かないまま、笑いながら話しを続けてく。
「亘って変なトコ抜けてるよなー」
「なっ、そんな事ないよ!」
幼なじみのカッちゃんこと小村克美にからかわれ、亘は膨れっ面をした。これも、美鶴の好きな表情の一つ。
すると、美鶴の手に力が篭った。ドアを強く握る。本人さえ気付かない内に。
暫くすると、またわぁっと声があがり、皆笑いだした。
亘もまた、美鶴の好んで止まない表情を浮かべて笑っている。