捧げ物

□やきもちやき
1ページ/5ページ



*やきもちやき*


「来ない…」

放課後の教室で一人呟いたのは美鶴。
いつもだったら『一緒に帰ろう!』と言いながら迎えに来る亘が来ない事に、苛立ちに似た感情を抱き始めていた。

読んでいた本を閉じて立ち上がり、亘のクラスへと向かう。





「…亘、いるか?」

小さく呟きながらドアを開ける。
亘は教室にいた。何人かのクラスメートと共に。

「それでさ、卵の……」
「バッカだなー…」
「あ、ひどい!」

人の輪の中心で、亘は明るい笑顔を見せている。美鶴の大好きな表情。


美鶴は入口に立ったまま。
誰も気付かないまま、笑いながら話しを続けてく。

「亘って変なトコ抜けてるよなー」
「なっ、そんな事ないよ!」

幼なじみのカッちゃんこと小村克美にからかわれ、亘は膨れっ面をした。これも、美鶴の好きな表情の一つ。

すると、美鶴の手に力が篭った。ドアを強く握る。本人さえ気付かない内に。

暫くすると、またわぁっと声があがり、皆笑いだした。
亘もまた、美鶴の好んで止まない表情を浮かべて笑っている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ