けんもほろろ

□弐 労働
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甘味屋に沖田さんを迎えに行く。
あ、いた。

『沖田さん。』
「思ったより早かったですねぃ。ちょっと待ってろぃ。」

沖田さんは店の中へと入って行き、何やら店主とお話し中。
外にある椅子に座り、ぼーっとしていたら
私に影がかかる。
なんだろうと見てみると、白くて大きい犬が私を見ていた。

『…君、かわうぃーね。』
「馬鹿じゃねぇの。」
『え、君喋れるの?』

すごいわんちゃんだなぁと見ていた。
ちょっと触ってみたかったけど、噛まれたら痛そうなので眺めるだけ。
私がニコニコしてるから、心なしかわんちゃんも笑ってる気がするよ。
基本私、笑顔なんで。

「馬鹿だろ。犬が喋るわけねぇだろ。常識もねェの。」
『…』

わんちゃんの横から、見たくもない顔が出てきた。
最悪だ。

「なに。お前もここの団子屋?」
『…』
「だんまりかよ。まぁそっちのがいいけど。」

どさっと、私の横に座った。
ちょっと。なんで座るの。
私の顔には笑顔が張り付いてて、
口を開けば喧嘩になりそうな気がして開けなかった。
喧嘩って言っても、言い返したら倍以上に酷いことを言われそうだから黙ってるだけ。

「真選組で働くの。」

こくんと頷けば、あっそうと。

「みんな優しい?」

また頷けば、あっそうと。

「最初だけだよ。どーせお前は江戸から出ていくんだからよ。」

なんでそんな言い方するの。
そんなに私がここにいるのが悪いのか。

『で…』
「旦那じゃないですかぃ。一体こんな所で何の御用で?」
「あー、沖田君。何。子守させられてるの?」
「買い物でさぁ。」
「ふーん。俺は散歩。じゃぁね。」

ヒラヒラと手を振り、わんちゃんを連れて歩いて行った。
悔しいと歯を食いしばっていると、沖田さんは目の前にお団子を見せてきた。

「食べやしょうぜぃ。これぁ俺の奢りでぃ。」
『ありがとうございます。』

お団子なんていつ振りなんだろうと一口食べる。

『…甘いですね。…っ、美味ひいれす。』
「そうかぃ。泣くほどうめぇですかぃ。奢った甲斐がありまさぁ。」

沖田さんの優しさに泣いた。
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