時をかける少女

□AM1:32
1ページ/1ページ







暖かい…
布団が温かいとかじゃなくて、ぬくもりって言うのかな…


「ん〜……」


ふっと目が覚めて、まだ重たい瞼をゆっくり開くと、そこには規則正しい寝息をたてて安らかな寝顔を浮かべるあいつの姿。

呼吸をするたびに揺れる、赤色がかった橙色のくせっ毛は、幾度も私のおでこにあたってくすぐったい。


「千昭ー」


何となく名前を呼んでみたけれど、今は真夜中。
起きるはずも無いし、起こそうという気も更々無い。

ただ、何となく……私の声に反応してくれたら嬉しいなぁ……とか思っただけ。


「相変わらず前髪長いなぁ……」


起こさないように、なるべく静かに腕を布団の中から引き抜いて、ゆっくりと千昭の前髪に触れてみた。


「わ……意外と柔らかいんだ…」


くせっ毛で柔らかいから、一度触ると何だか癖になってしまう。
親指と人差し指で束を作って遊んでいたら、寝ていた筈の千昭がモゾモゾと動いた。

うっすらと開かれる千昭の瞼。
そこから覗かれる瞳は、まだ眠気を帯びていて、ぼんやりと虚ろだ。


「ち……千昭?ごめん、起こしちゃった……?」
しかし、千昭からの返答はなく、代わりに私の背中に自分の腕を回して来て、そのまま私は千昭に引き寄せられる形になった。


「ん〜〜……真……琴…」


ぎゅうっ……と抱き締められて、たちまち私の顔は熱を持ち始める。


「ごめん…やっぱり起こしちゃったね……」


すると、私の首元に顔を埋めていた千昭の頭が左右に繰り返し動いた。


「大丈夫……真琴に触られるの好きだから…」


んー、普段のキャラはどこへ消えた?
こんなにも日中との差が激しいと、逆にこっちが本当の千昭なんじゃないか……とか疑ってしまうだろうが。


「うん…わかった……じゃあ、もう寝ていいよ?私も寝るから……」
「……もう止めちゃうの?結構気持ち良かったのに……」


おーい、誰だ偽千昭を私の隣に寝かせたのはー。


「髪しか触ってないでしょーが……」
「髪でも、気持ち良いことに代わりはねーの。だから触って」
「〜〜〜っ…もう寝るからっ!!」


無理矢理千昭の腕を自分から剥がすと、私は反対側に寝返りをうった。
しかし、この行動は逆に千昭を有利にたたせるものになった。


「きゃっ!」
背後から伸びてきた千昭の大きな掌が私の視界を完全に遮ったのだ。


「ちょっ……何するの!?」


何も見えないまま、ただ千昭のもう片方の腕が私のお腹回りに来たことだけが分かって、抵抗も虚しく、再度私は千昭の腕の中に収まってしまった。


「ちーあーきー」
「真琴が先に手、出してきたんだから……俺もお返し。」


その瞬間、右耳の下辺りに走ったピリッとした痛み。
それに続く、微かなリップ音。


「俺のものって言うマーク。ここなら隠し用がないから、変な虫も寄って来ねーな」


耳に降りかかるバカ男の声はもの凄く満足そうで。


「ち……千昭ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「照れんなって」
「照れるわドアホ!!!」


その日から、約一週間。
千昭は真琴に、おさわりは愚か、口さえ聞いてもらえなくなった。


「千昭のバァァカッ!!!」


……でも本当は、嬉しかった真琴でもあったとさ。







-END-

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ