いつわり短編

□星月草
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「九十九ー!!見ろよコレ!!」
「んー?」


タタタ、と小走りをしながら、俺に近づいてくる俺の片割れ、燕。

燕は、何やらニコニコと笑みを浮かべて、俺の前まで来ると、無理矢理俺の手を掴んで、そのまま俺の手に何かを乗せた。


「これ……」


自分の掌を見て、そこにあったものに俺は目を丸くした。


「お前見てみたいって言ってただろ?今、そこの草むらでバッタ探してたらさ、なんかわかんないけどそれがあったんだ」


燕の手に握られていたのは、ここら辺の土地にしか見られない、星月草だった。
……星月草は、とても小さな、白くて可愛らしい、星の形をした花をつける珍しい草で、似たものはあるが、本物は稀にしか見られないと、先日見た野草図鑑に書かれていた。


「感謝しろよ?」


二ヒヒっと笑う燕に、俺は未だ収まらない嬉しさに、コクンと、軽く頷いた。


「…にしてもさ、星月草…だっけ?普通に草むらに生えてるとか、本当に珍しい草かよ」
「べ、別に良いんだよ。珍しくなくても、普通に生えてたんだとしても……」
「ふーん。…ま、とりあえず、本物に出会えてよかったな!」
「……うん。」


俺は、手の上に乗る星月草を見つめ、優しく、それを両手で包んだ。


「これさ……願いを叶える力があるんだって」
「え、まじ?」
「うん。詳しいことは分からないけど、図鑑に経験談が載ってた」
「へー!その体験談って、例えば?」
「えっと………テストで100点取った、とか、好きなものが給食に出た、とか、好きな子に告白したら付き合えた、とか……」


頭の中にぼんやりと浮かぶ経験談を口にしていくと、目の前で聞いていた燕がおもむろに溜息をついた。


「…それ…その、体験談ってやつ?……別に願わなくても、普通に日常で努力とかすれば全部叶うんじゃね?」
「!?そ、そんな……」


「そんな筈ない!!」と言おうとして、ふと真剣に考えてみる。

……テストは…確かに勉強すれば100点取れる……。
給食……これは運まかせか…?
告白なんて……ねぇ…?

そこまで考えてみると、確かに燕の言うとおり、全てが努力や運で叶うもの……。


「…あ"ぁー!!騙されたー!!」
「そんくらい普通にわかるだろ」
「あ"ぁー、悔しいー!!!」
「なんでもかんでも信じすぎ。」
「うるせー!!」


燕の笑い声に、俺は騙された恥ずかしさで顔を赤くさせ、いつまでも笑い続ける燕に腹が立ち、勢いよく腹に蹴りを入れた。


「ごふぁっ!!、な、何すんだよ!!」
「いつまでも笑ってる燕が悪い!!」
「だ、だって、お前ウケんだもん!」
「うがーッ!!バカにすんなぁッ!!」


そのまま俺らは、日が暮れるまで殴り合いを続け、辺りが暗くなる頃には互いに草原に寝そべり、ハァハァと荒い息をしていた。


「ハァー…九十九のせーで疲れたー」
「それは、こっちのセリフだ」
「まだ怒ってんのかー?」
「別に……もう怒ってなんかないし…」


微かな笑い声と共に「やっぱ怒ってんじゃん」と聞こえて、俺はプイと横に寝返りをうった。

その瞬間、鼻を掠る草の青臭さに、俺は眉間に皺を寄せる。


「あー、もう……なんか疲れたなー」
「九十九は年寄りだなぁ〜」
「お前だってさっき疲れたって言ってただろ」
「あ、ばれた?」


心地よい夜の風は、殴り合いのお陰で溜まった暑さを良い感じに冷ましてくれた。

今家に帰れば、ちょうど良い感じに夕食が用意されていそうな、そんな時間。


「なぁー、九十九ー」
「何だよ」
「さっきの星月草、まだ持ってる?」
「あー、うん。ポケットに入れておいたから。ただ、殴り合いで無事かはわからない。でも、多分大丈夫だと思う」
「…ならさ、その星月草、まだ願い聞いてくれるよな?」
「……多分」


殴り合いをする前は、星月草を馬鹿にしかしていなかった燕の突然の質問に、俺は内心不思議でいた。


「…その、願いごと、お前の星月草にしてもいい?」
「え、なんで?」
「願いごとが見つかったんだ」
「願いごと?」
「うん、願いごと。」


淡々と、でも、密かに楽しそうな声で喋る燕。
いつも楽しそうに喋る燕だが、今日の燕は、また幾段と楽しげな雰囲気が声に含まれていた。

俺は、その願いごとが何なのか気になりつつ、ポケットに入れてあった星月草を取り出した。


「その願いごとって、何?」
「えー、教えたくなーい」
「…じゃあ星月草に願いごとさせない」
「わかったわかった!教えるから、星月草貸して」
「本当に教える?」
「教える教える。目の前でお願いするから、嫌でもわかるし」


何時の間にか俺の側に来ていた燕は、スッと手を出してニンマリと笑う。

俺はそれを軽蔑の目で流し、持っていた星月草を燕に渡した。


「これ、普通に持ちながら願いごと言えば良いのかな?」
「なんか、ぎゅっと握りしめながら願いごとを口に出して唱えるとか…図鑑に載ってた」
「図鑑信じられねー!……ま、やってみるか!」


燕は俺から渡された星月草をぎゅっと握りしめると、ゆっくりと目を瞑り、小声で、その『願いごと』を口にした。


「星月草、星月草さん……俺からの願いごとです。……俺の願いごとは、いつまでも、ずっと、こんな、楽しくてたまらない時間が、この先も九十九と一緒に過ごせたらな……ってことです。」
「燕…?」
「これから、お互い、学校とか別れて、彼女もできて…あ、九十九はできねーだろーけど。……中々今日みたいに遊べなくなるかもしれない。でも、俺らは双子、二人で一つだからさ……」


一部に批判を述べたいが、燕の優し気な表情に、俺もふと、燕の願いと同じ様なものが心に浮かんで、フッと思わず口元が緩んだ。


「……燕、やっぱり、あの図鑑に載ってた経験談、俺は星月草のお陰だって信じる」


ほんの少しの沈黙が流れて、燕の「俺はとっくのとうに信じてたし」と笑う声に紛れて聞こえた言葉に、俺は暗闇に紛れて、静かに微笑んだ。



































うむ。燕好きだぞ←
今回の設定は中学生の燕と九十九で、二人は双子さんという感じでした。
なんかさ、双子って近くにいるはずなのに意外と近くなかったり……

少なくとも管理人が見て来た双子さん達は、なぜか皆そうでした……
…ちなみに、管理人は三人姉弟。笑
てか、星月草てなんやねん…笑

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