いつわり短編

□嘘の後の正直
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「、いい加減、離してくださいっ!!」


ねーちゃんの高い声がワシの背後で繰り返される。

それでもワシは、ねーちゃんを宿に帰す気は更々無く、腕を掴んだまま歩き続けた。

すると、あの借宿から少し離れた場所に、二人きりで話すに良さげな小屋があった為、ワシはねーちゃんを無理矢理引き連れてそこに入った。


「…お、椅子があるやないか」


小屋の隅に使えそうな木椅子が一つだけあるのを見つけ、ワシはそれを小屋の中心辺りに持ってくると、ねーちゃんに座るように促した。

…しかし、そんな簡単に今のねーちゃんがそれに従う筈も無く。


「私、用が無いなら帰りますわ」


そんなことを言われるのは想定内であり、ワシは小屋から逃げようとするねーちゃんを後ろから抱きしめた。


「ひっ!!?」


こんな時に何をしてんだ、と薬馬か蝶左がいたら普通に突っ込まれそうな行動だが、今のワシにはこれしか頭に思い浮かぶことは他に無かった。


「…っ、空さんは…そんなに私をからかって楽しいんですの?」


ワシの体が硬まる。

まさかそんなことを言われるなど思いもしなかったからだ。


「からかってる…?それはどないな意味や……」


心臓がうるさい。
やかましい、止まれ心臓。


「…私、空さんが好きです」


突然の告白にワシは肩をピクリと震わす。

…その告白は、確かに告白だった。
過去にも一度受けたことのある、好き、を伝える告白。

…が、今のねーちゃんの告白は、全く感情の無い、好きの欠片さえ見当たらない感情から来る告白だった。


「………ねーちゃん、今はそれ関係無いん「……でも、空さんは私が嫌いだと言いました」
「っ、それは、……」
「だから私は空さんに対する気持ちが折れてしまいました。……いえ、簡単に言うと、好きだけど、でもそれは色々と無理だから、迷って迷って迷ったあげく思いついたのが「ワシを皆と同じ様に見て、気持ちを隠そう……そう思たんか?」」


ワシの言葉に頷くねーちゃん。


「隠そう、って言うより、消そう、の方が正しいですけど………ってことで、私は宿に戻りますわ。夕食を作らなきゃいけませんので…」


力が抜けたワシの腕の中で、ねーちゃんはクルリとワシの方に身体を向けると、にっこりと、また、あの、皆に向けるのと同じ笑みをその顔に刻んだ。

その時。
……それを見たワシの中で、プツリと、何かが弾ける音がした。


「っ、空さん!?」


緩んで、ねーちゃんの体を自由にしていた腕に、再度……今度は絶対逃げられないくらい強い力をこめて、ギュッとねーちゃんを抱きしめた。

そんなことをすれば、当たり前だがねーちゃんは照れる以上に今は怒り、必死にもがいた。


「っ、痛い!離してください、空さん!!」
「嫌や!!」
「嫌じゃありせんわ!!自分の事を嫌いと言った人間に抱きしめられる私の気持ちを考えてください!!」
「〜っ、嫌いなんて………嘘に…決まっとるやろ!!!!!」


ワシの叫びに近い大声と抱き締める腕に力が入ると、腕の中にいたねーちゃんは急に静かになった。

…たが、静かになったのはほんの僅かな間で、その後にはか細い嗚咽とすすり泣く声が聞こえてきた。


「そう、やって…、また、私を騙して笑うんですの?また、私を騙してっ……」


カタカタと何かに怯える様に震えるねーちゃんは、先程の強がりが嘘の様に酷く弱々しい。

…ワシは、あの時の自分の発言がいかに彼女を傷つけていたのか、今になってやっとわかった。


「…ねーちゃん、ワシは……ただ、あの時のねーちゃんがおもろくて……可愛く、て……からかった後の、その、また更に可愛い姿見たくて……せやから、…せやからな、………」


いざとなると頭が働かない自分が情けない。
口籠って、一番言いたい事が言えない。


「…せやから……「私……どれだけあの時、悲しくて、苦しくて……泣きたかったか、空さんには分かりますか?」」


….そうだ……。
ワシは…仲間として……男として………好きで好きで仕方ない愛しい彼女に対して……最低で、最悪なことをしたんや。

…いくら自分が偽り人で、普段から嘘をついているからと言っても、やっていいことと悪いことがあるのを、ワシは何時の間にか忘れていた。

しかも、その嘘をついた相手が、自分が最も大切にしている彼女だとか……。


自分のした行為に、ワシは情けなさと申し訳なさで、思わず泣きたくなった。


せめてもの償いに……ワシは抱き締めているねーちゃんの首元に顔を埋めて、ポツリと、ねーちゃんにしか聞こえない声で自分の本当の…偽り無い想いを口にした。


「…ワシは…ねーちゃんが好きや……好きで好きで仕方ない、愛しいんや………ハッキリ言って…あいつ等の誰よりも………せやからな、嫌いなんて嘘は……もう絶対使わへん。約束する。……ほんま、ごめん…ごめんな…」


あまりにも、都合が良すぎる自分の発言。

…しかし、暫しの沈黙の後、背中に二つの腕が回されて、キュッと着物を掴まれるのがわかった瞬間、ワシは二日間だけでも消えていた愛しい温もりをまた感じることが出来たのを酷く安堵し、ねーちゃんの手に答える様に、ワシも……今度は優しく、痛くない程度にその泣いて震える体を強く抱きしめた。

















































オワター!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ←
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