いつわり短編

□嘘の後の正直
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……つい二日前くらいに、一行の中で話し合いが行われた。
まぁ、話し合いと言っても、それは確かめ合いみたいなもので、今でもちゃんとお互いを信頼しているか、仲間としての好きを持ち合わせているか……と改めて自分達の気持ちを確認するようなものだった。
そして、それは薬馬の考えにより、一人一人がちゃんと思ってる事、すなわちお前は俺にとって大切な仲間だ、など、ありきたりなことをわざわざ言う、という面倒くさいやり方を反対意見を押し切りながらも用いられた。

…すると、当然ワシにもそれは回ってくるわけで。
別に奴等が嫌いな訳でも無かった為……いや、寧ろ好きだった為、普通に思ってる事をそれぞれに伝えた。

勿論一人一人に言っていけば、ねーちゃんに辿り着くのは目に見えていて、ワシが烏頭目などに大切やー、とか、好きやー、と言っているのを見ていたねーちゃんは自分にも言われるのをドキドキしていたのか、俯いて待っているのが分かって。

それが面白くて面白くて…可愛くて、愛しくて、ついからかいのつもりでワシはねーちゃんに言った。


「ワシは……ねーちゃんが嫌いや〜!!好きな訳ないやん、こないな女〜」


……
そう……
あれはちょっとした悪ふざけだったんや……


薬馬で遊ぶみたいに、ほんと……ごく本当に軽い気持ちで言っただけだった。




























ーーー


「薬馬さーん、これ、ここに置いといて大丈夫ですのー?」
「あ、悪ぃ悪ぃ、忘れてた」
「あ、じゃあ私がそちらに持って行きますわ!」
「おー、ありがとう」


薬馬とねーちゃんの会話が普段と何ら変わり無くワシの前で繰り返される。
そんな二人を横目に、ワシはぽちにちょっとした頼み事をする。


「……なぁ、ぽち、ちとねーちゃん呼んでみてくれへんか?」


膝の上で何かの鼻歌を歌っているぽちにわざわざそんな頼み事をするなんて中々無い。
しかし、ぽちは少しの疑問も持たずワシの頼みと言う名の呟きに答える。


「おねーさまですかー?」
「せや」
「わかりましたー」


するりとワシの膝から降りると、ぽちは数歩歩いた先でねーちゃんを呼んだ。

…ワシはそれに、無性に緊張を隠せなかった。


「おねーさまー」
「?どうしたんですの?」


ねーちゃんは不思議そうな顔をしながらぽちに近づくと、足元にいるぽちを両手で抱き上げた。


「なにやらー、空さんがー、ぽちにおねーさまを呼んでほしーと言われましたー」
「っ、ぽち!!」
「空さんが?」


正直に話しすぎたぽちにねーちゃんは怪訝な表情を見せると、一瞬だけワシに視線を当ててきた。

…でも、それは本当にたった数秒さえ無い位の短さで、ワシと視線が合いそうになった瞬間逸らされ、ぽちに意識を戻された。

ズキ……
不意に心臓辺りが痛んだ。


「…そんな訳ありませんわよ、ぽち。空さんは……」
「…?」
「……………私が………嫌い、なんですもの」


ねーちゃんの言葉に……ワシの鼓動がうるさいくらいに高鳴った。

しかも、それは締め付けるようにしてワシの呼吸を上手く出来ないようにしてくる。


「さ、私は今日の夕食を作らなきゃいけませんわ!ほら、ぽちは夕食の刻まで空さんと遊んでてくださいですわ」


ぽちが返事をする間もなく、ねーちゃんはその場にしゃがむと、手の中にいたぽちをゆっくりと床に下ろした。
その間、ワシは何とも言えない感情に浸りながら、その光景を見ていた。


「……では」


ねーちゃんはぽちの頭を一撫でし、ワシの方に顔を向けると……

笑顔で笑った。

…にっこりと、いつも笑うその顔と同じ顔でワシに笑った。

いつもとは違う、少しの照れも無い、薬馬やぽち、皆に向けるのと同じ顔で……ワシに笑った。


「〜っ、ねーちゃん!!!」


ワシは、思ったら、それを直様行動に移すタイプではない。
どちらかというと、よく考えてから行動するタイプになる筈。

…でも……


「ねーちゃん!!!」


グイ…
ねーちゃんの片腕をこっち側に引っ張る。
その時、ねーちゃんが痛そうに顔を歪めたのは、ワシが強く握っているからだと思う。


「…ちとこっち来ぃや」
「っ!!嫌ですわ!!!」


バッと腕を払われそうになる。
でも、感情のまま動く今のワシはねーちゃんの腕を掴んだまま離さない。


「やめてください!!!、触らないでくださいッ!!!」
「っ……ええから、ちとこっち来ぃや!」
「!!」


ワシの大声に、ねーちゃんは驚きを隠せないのか目を見開く。
…見開いた目の端に、うっすらと浮かんだ涙。

それを見た瞬間、ワシは益々心臓が苦しくなった。


「……ぽち、ちとワシとねーちゃん此処離れるから、もし薬馬になんか聞かれたら適当に流しといてくれへんか?」
「わかりましたー」


小さな手をぴらぴらと振られるのを見て、ワシはねーちゃんを連れて借宿を出ると、そのまま人気の無い所に向かった。



















ーーー
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