いつわり短編

□ハッピーバースディ空
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ーーー



「ふぅ…こんなもんだろ?」

只今の時刻は5時53分。
まぁ、良い頃合いに終わった感じだろう。スーパーで買ったものでも工夫すればなかなかのものだ。

「こじゅー、もうエプロン外していー?」
「おぅ良いぞ。ついでに蝶左と二人で手洗って来い。他にも何か用意するものがあるなら自由にしていいぞ」
「はーい」

バタバタと相変わらず騒がしい烏頭目に呆れながらもついていく蝶左を見、自分も纏っているエプロンや三角巾を取り、伸びをした。

「んん〜っ!…はぁ。」

慣れないことをすると身体は疲れるもんだな…など出来上がった後の喜びに比べれば疲れなど屁に等しいくらいなのだが。
待ち遠しいワクワクが体をウズウズさせて、柄にもなく落ち着かない。そんな自分に比べて相も変わらず平常心真っ只中の控と岩清を見ていると自分が馬鹿馬鹿しく思える。

「こじゅー!見ろよコレー!」
「!!!な、何してんだお前等…」

これはまた…

『ピンポーン!!』

遂に待っていた知らせの音が皆の集まる部屋に響いた。それによりその空間だけが静寂に満たされる。

「あ、閨だなきっと!皆、打ち合わせ通りな!」

部屋の電気を消し、パタンとドアを閉める。きっと閨が待っているだろう家の外に繋がる扉をゆっくりと開いた。
開かれた視界に映る白髪に不気味な笑いを向けると、白髪はビクリと顔をひきつらせて小声で呟いた。

「…や、薬馬…?」
「いらっしゃい……我が城に迷い込んできた二匹の可愛いうさぎちゃん達……」
「…は?」

三人の間に流れる間。

「(…は、恥ずかしいィィィィィ!!
自分で決めた癖に何か凄ぇ後悔してる俺は何なんだァァ!!
あ、ちょ、閨!てめっ、笑うの必死に堪えてんのバレバレなんだよ!!)」
「なぁ、こいつ薬馬とちゃうんか?」
「えっ??い、いや私には分かりませんわっ!」

あー、もー、泣きそう……

「そ、そうだぞうさぎちゃん……そんなにや…薬馬というものが気になるなら我が城に招かれてみないかい?」

急な展開にポカンとする空に、顔を真っ赤にして震えている閨が憎たらしくて堪らない自分を呪いたい。段々眉間に皺を寄せ始めた空に俺は焦り、急いで閨に合図する。

「あっ、そ、そうですわよ空さん。試しに招かれてみるっていうのも案外面白いかもしれませんわ!」

暫しの沈黙に俺と閨は焦りを隠せない。
しかし、空から帰って来た返事にひとまず安心する。

「……ま、別に薬馬の仕業やろぉし、帰ってもやることあらへんし……招かれてやるわ」
「!!なら……私が案内しよう……」

あくまでも平然を装って。
俺は二人に「ついて来なさい」と半ば命令口調で言い、あいつらが待つだろう部屋に向かった。

「さっ…この扉を開けてご覧?」
「このドア、リビングのやないんか?」

いちいち突っ込みの多い奴だ。しかし、ここまで来て失敗しました…なんて笑い事じゃすまされない。
さて…何か良い案は無いか。

「あ、空さん…私、早く部屋に入りたいんですが…」
「あ、そうなん?じゃあ、開けるわ」

ナイス閨!!なんて喜びも束の間、中にスタンバイしている奴らに合図を送らねば…

「“狐の嫁入り”!!」

突然で訳の分からない発言に、空は軽蔑した視線を俺に向けて来た。あぁ…もう俺、変人決定だなこれ…。

「大丈夫か、おどれ……あ、頭が大丈夫かって意味や」
「…だ、大丈夫だよ。ささ、それよりも早く扉を開けてご覧」

渋々といった感じに、空はリビングへと繋がる扉を開いた。

『パパ、ンッ!!パンッ!!』

「え……」
「「空、お誕生日おめでとう!!!」」

真っ暗だった部屋が急に明るくなり、チカチカと視界が白くなったりして痛かったが、それよりも呆然と立ち尽くす空の様子が気になった。

「たんじょーびおめでとー空!!」
「ま、誕生日おめでとーとか言っとくワケ」
「お、おどれらっ……」

弾け飛んだクラッカーの中身を頭や肩に乗せながら、プルプルと震え出した空。
まずい…やり過ぎたか?…いや、そんなに怖いわけでもなかったはずだし…
とりあえず俺は空に駆け寄った。

「お、おい空…まさか泣いてるん「ぶぁっはっはっはっはっは!!!」……え?」
「なんや、おどれらの格好は!!どっかの学芸会にでも出るんか!?えぇ!?」

腹を抱えて笑う空にポカーンと口を開けたまま動きを停止した空以外。

「が、学芸会ってなんだよ!!」
「だっておどれらが着てんのって……」

カカカと笑いながら指を差した先にあるのは美しい顔立ちの白鳥……が首から生えたどっかのバレリーナかお笑いが着るようなフリフリのスカート付きの純白全身タイツ。
しかも首の生えてる部分は男性のk(自主規制だが、まぁ俺も今さっき笑いを堪えて閨達の元へ行ったわけだから、ツボが浅めの空にとっちゃ爆笑も良いところだろう。

「〜っ!!だからやめろって言ったワケ!!」
「だ、だって…面白そうだったからさ…」

恥ずかしいあまりヒステリックを起こしている蝶左を見て、更に空の笑いは大きくなる。……あ、よく見たら控と岩清も同じの着てんじゃねえか…。

「カカカっ!!!……もぉ、ワシを笑い死にさせる気かおどれらは…」
「で、でも面白いだろこれ??」
「烏頭目の趣味って結構あかんライン入っとるよな」
「へ?あかんらいん?」
「まーまー、別に知らんくてええわ。…にしてもこの部屋…エライ凝った装飾やな」

急遽閨に頼んで作ってもらった、折り紙を用いて作る鎖が同じ感覚でたるみをきかせながらぶら下げてあり、その周りにはキラキラとしたアルミテープが小さなボンボンの形で取り付けられ…まぁ、自分達にしては頑張った方だからな。

「まぁ、とりあえず役者も揃ったことだし、パーティーメインに行くか!」
「おー!よし、蝶左プレゼント持って来ようぜ!」
「……そういうことは口に出して言わないワケ」

烏頭目の声に皆が動きだし、俺も冷蔵庫にしまっておいた食べ物やジュースなどをテーブルに置いていく。これらも勿論手作りで、料理が得意な閨を中心に皆で作ったものだ。いざ、よーく見ると歪な形をしたものもあるが…ま、許されるだろ。

「薬馬さん、私も手伝いますわ」
「おぉ、ありがたい。…あれ?空は?」
「空さんならソファにいますわ」
「え、あいつが?」

閨の言っている通り空はソファに座っていた。ちょこんと一人座り込み、まるで普段の空からは考えられない大人しさだ。
…これは…明日は大雪か?
でも……

「なんかあいつ、ソワソワしてて挙動不審じゃねぇか?何か不審者みたいだぞあいつ…」

空の膝にいるぽちの方がよっぽど普通に見える。いや、ぽちも結構変か?……あ、ぽちはあれが普通営業か。

「まぁ、細かいこと気にしてたら時間だけが進んじまう。急ぐぞ閨」
「はい」

それから各自準備を終わらせ、料理が乗ったテーブルを囲むように置かれた椅子に座った。空の座るソファもテーブルの前に置かれてある。

「このケーキも作ったんか?」
「ん?あ、それは閨と岩清と控が作ったやつだ」
「砂糖は控えめにしてありますわ」

「ふぅーん」と鼻から出したような掠れ声に、なんとなく空が喜んでいるというのが伝わって来た。
あの変な役もやったかいがあったな……。え、それは関係ないって?だってまじ恥ずかしいんだぞあれ……。

「んじゃー、こじゅ!!プレゼント渡していーい!?」
「まだ、待て。ハッピーバースディ歌わねぇと」
「えー、細けー」
「歌ったら渡して良いから。よし皆、歌うぞ!……せーの!」
「「はっぴばーすでぃとぅーゆー♪はっぴばーすでぃとぅーゆー♪はっぴばーすでぃでぃあうーつほー……はっぴばーすでぃとぅーゆー♪」」

空以外のアカペラ合唱により、盛り上がる空気は幾分優しげな明るいものに変わる。
歌が終わると共にケーキに刺さってユラユラと揺れていた灯が空から吹かれる息によって消された。もわもわと灰色の煙が空中を漂い消える景色はどこか儚い。

「よし、じゃあ烏頭目、プレゼント渡して良いぞ」
「よっしゃー!蝶左も一緒に渡そうぜ!」
「んぁー」

さぁ、俺もプレゼントを自分の部屋から持ってくるか。

「ちょ…ちょお待てやッ!!!」

空の大声に俺とそれ以外は動きを止める。や、やっぱりつまらなかったのか!?

「お…おどれら…最近ワシとよそよそしかったんは、これの為やったんか…?」
「空、気づかなかったのかー?」
「あ、烏頭目!!」

どうしてまた今日の烏頭目はいらんことばかりしてくれるのだろうか……俺は部屋の入口に向けていた体を空の方向に向けた。
そして、目を見開いた。

「空……もしかして泣いてる?」
「なっ…泣いてなんかおらへんわ!!!」

服の袖で目の位置をゴシゴシとこすっている動作は動かぬ証拠だろ……しかも声が震えているのはどうしてかな?

「べ、別にワシは泣いてる訳やないっ!!ほ…ほら、さっさとプレゼントよこさんかい!!」

一人ムキになる空に俺達はその日一番の笑いが沸き起こった。




















「あ、あんな…おどれらに言いたいことあんねん……」 

プレゼントを抱えて再び挙動不審に陥る空に皆はニコニコ顔で次に来るはずの言葉を待ち受ける。

「き…今日は……おおきになッ……な、何気嬉しかったで…」

顔を真っ赤にする空に俺等が爆笑したことなど言うまでもない。















































お、終わったー!!
後半色々と人が出て来ていませんが、ちゃんといます!笑
空、閨、薬馬、烏頭目、蝶左、控、岩清が今回のメンバーです。
みなもは出そうか迷い、出さなかった……みなも好きな方すんません泣
あ、ちなみに今回の話は現+学パロです。
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