いつわり短編

□ハッピーバースディ空
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「空、今一番欲しい物はなんだ?」

突然背中に降りかかる声にくるりと体を曲げる。食べかけの卵焼きがポロリとこぼれるのが見えて、それがぽちの口に運ばれるのを見て思わず頬が緩んだ。

「欲しいもんー?……別にこれといってあらへんなぁ〜…あ、強いて言うなら金とか?」
「よし。今からバイトでも行くか」

キラキラな笑顔でワシの腕を引っ張る薬馬にビンタを喰らわす。

「痛ぇっ!金が欲しいんじゃねぇのかよ」
「おどれが欲しいもん聞いて来たのに何でワシがその欲しいもん手にいれなあかんのや!」
「軽い冗談だろーが!」

痛いと呟きながら頬を摩る薬馬を横目に、いつのまにかスゥスゥと寝息をたてているぽちの頭を撫でてやる。
お昼休みはあと10分もなさそうだ。早くこのプラスチック箱に残る食べ物達を食べてやらなくては。

「あ、こじゅじゃん!何してんの〜?」
「おう、ちょっと空に聞きたいことがあったからな。…ちょうどいい。ちょい、烏頭目耳かせ」
「んー?」
「おい、話なら俺が聞くワケ。こいつじゃまともに覚えられないワケ」
「あ、蝶左がいたか。うぅん…あ、じゃあ二人共こっち来い」

薬馬が軽く手招きをしながら教室の外に出て行くのが見えると、その後ろに烏頭目と蝶左が揃って教室から姿を消した。
賑やかだった周りが一変、こうも静かになると…

「…なんやねん…ワシだけ仲間外れみたいやないか……」

怖いくらいの孤独感が自分を包んだ。無言で弁当の中身を食していくものの…全く味気が無い。美味しく感じない。さっきまでは普通に美味しいと感じていたのに。
…もしかしたら舌がどうにかなってしまったのかもしれない。

「ああーもー!!別にあないな奴らいてもいなくても変わらんわアホっ!!」

最後に残しておいた油揚げ入りの煮物を食べると、休み時間終わりを知らせるチャイムが鳴った。

























ーーー


「…ってことだから、よろしく頼む」
「わかりましたわ!任せてください」

五時限、六時限と夏休み開け初日からとんでもない日課を組む学校に罵声一つでも飛ばしてやりたいくらいだが今はそんなことよりもやることがある。
目の前でノートを千切った切れ端に目を通す閨を見て自分も今日やらねばならないことを頭の中で確認する。

「じゃあ、集金は後日。夕方5時に俺の家に来てくれ」
「了解ですわ!あ、岩清さんも一緒で大丈夫ですか?」
「おう、全然オーケーだ。寧ろ多い方が良いだろう」
「はい。それでは、また後で」

ニッコリ微笑んだ閨を見送り、自分も早足で自分の家に向かう。その途中にあるスーパーに寄るのも忘れずに。

「あ、控!」

これまた驚いた。寄ったスーパーの和菓子売り場で真剣な表情を浮かべて団子の入ったパックと大福の入ったパックを順番にカゴに入れている控が岩清と一緒にいたのだ。

「あ、医者くんだ。買い物?」
「医者くんって……あぁ、ちょっと買いたいものがあってな」
「ふぅーん。あ、紹介するね、夏休みの間に俺とお付き合いすることになった岩清」
「にゃんにゃんの彼女を務めることになった岩清ですわん」
「お、おめでとう…」

やっぱり慣れない二人の雰囲気に俺は苦笑いで返した。ちなみに俺は二人とも知っている為そんなに改められてもピンと来ないのが本音だ。
…あっといけない。時間を忘れてた。

「喋ってる最中悪いんだが、早く帰らなきゃならねえんだ。お前等もちゃんと来いよ!」
「分かってるってー。じゃあ頑張ってね医者くーん」

控ののんびりとした声が背後に聞こえた。
…そういえば閨は岩清と来るとか言ってなかったか?まぁ…今はそんなことよりも急がねえといけねえが…。

「これ、と…これ?か…」

メモ用紙に書かれた物をポンポンとカゴに投げ入れ、全てをカゴにおさめると急いで会計に向かった。

















家についた時には既に短針が5を指す寸前だった。

「遅いぞこじゅー!」
「悪い悪い、ちょっと色々あってな…」

軽く息切れをしながらポケットから鍵を取り出し家の扉の鍵穴にそれをさしてクルリと回す。ガチャ…と言う音と共に玄関へと繋がる道が出来、そこへ一番乗りと言わんばかりに烏頭目が走りこむ。

「危ねぇから走るな烏頭目」
「分かってるってー。俺の靭帯硬直の高さは蝶左が一番わかってるだろ?」
「身体能力ね。靭帯が硬直したら色々やばいワケ」

そんないつも通りの二人の光景を軽く流し、外にいた全員が家の中に入ったことを確認すると俺は扉と同時に皆がいる部屋へと足を進める。

「相変わらずでけーな、お前ん家…」
「こじゅ、こじゅ、あいつが来るまであと何分??」
「一応6時にはここへ来てもらう予定だ」
「え、でも……薬馬さん何も知らせてない筈では…」
「そこでだ。閨にそのエスコート人としてあいつを迎えに行ってほしいんだ」
「へ!?わ、私がですの!?」
「おう。この役は大分前から閨にやってもらおうと決めてたんだ」
「そ、そんな……」

ぷしゅー…というような空気音が浮かぶ位に真っ赤な顔をする閨に皆はそれぞれ笑った。
さぁ、あとは時間内に準備を進めて終わらせるのみ。

「皆、今日は盛り上げて行こうな!!」

『おーッッ!!』という気合いに皆の中にあるモチベーションは更に上がった。


































ーーー
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