いつわり短編

□天気予想
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今日も晴天。
今日は晴天。
明日は晴天……?


「あーした天気になぁ〜れ!」


カランコロン……
大きく振りかぶった足から飛んでった、一つの下駄。
薄い桜色をした、美しく、華やかな、可愛らしい下駄。


「それ……大切にしているんじゃないの?」


私の疑問に、目の前にいる鬼姫はキョトンとした顔でこちらを振り返った。


「え?あぁ…下駄のことですの?もちろん、とっても大切ですわ」


宙を舞った下駄は、虚しい音をたてて、地面に転がった。


「なら……何でそんなことに使うの?」


鬼姫は、片足だけでピョンピョンと器用に跳ねながら、地面に落ちている下駄の元へ向かっていった。


「そんなこと?……あ、明日は晴れだわ!」
「……聞いてるの?」


鬼姫は、フンフンと鼻歌を歌いなから、下駄に足を通すと、駆け足で私の方に近寄ってきた。


「これは、お空の具合を確かめる遊びですわ。ただ単に下駄を投げているだけではないですわ」
「……下駄が可哀想…」


いくら遊びだとは言え、自分が履いている草履を投げ飛ばすなど、私だったら絶対出来ない。


「………閨もやってみます?」
「は?」
「意外と当たりますわよ?私の下駄さんは、明日のお空を晴れだと予想してくれていますわ」


そう言う彼女の顔は、自信満々で、笑顔が一際輝いて見える。


「……自分の草履を投げるなんて……私には出来ない」
「……?なら、私の下駄さんでやってみます?」
「そ、そうじゃない!!」
「……閨…怒ってますの?」


この子には、物の価値が分からないのだろうか……


「……怒ってなんかない……もういい。屋敷に戻ろう?」
「……下駄や草履が可哀想だと思う気持ちは、私にもありますわ……」


分かっているなら、やらなきゃいいのに。


「?」
「……でも…」


鬼姫がスゥッと息を吸い込むと、満面の笑みで……本当に幸せそうな顔をして、こう言った。


「下駄さんも楽しいと言ってくれているんですの!……毎日…お空を予想出来て………………なーんて、全部私の思惑ですけど」
「……何が言いたいの?」
「ふふっ…………お空は……………自由で良いですわね…」
「(鬼姫………?)」
「さ、閨がお空を予想すること嫌がるから、屋敷に帰りますわ!」
「う……うん……」





よく分からないまま、鬼姫は会話を終わらせてしまったが、その時の彼女が空を見上げた横顔は、何故かとても寂しそうに見えた。
今にも……涙が溢れてくるのではないかと思うくらい……。




























次の日………私が朝一番に見た空は…………恐ろしいほどに雲一つ無い晴空だった。





























-END-

閨が鬼姫と出会って、本当に間もない頃を目指して書いてみました。
ちなみに、思い付いた理由は、友人Aがよく靴で天気占いしてるのを見たからです(笑

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