いつわり短編

□髪を結いましょう
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私がやりたいこと。
あ、はい、空さんとのラブラブデートです・・・なんて夢のまた夢・・・ではなく。
今、目の前で散らつく薄い空色の長い髪を、


「結わいてみたいですわぁ」

「・・・閨?」


サラサラ揺れる長い髪を、思わず手で束にとって掴み、その毛をじっくりと見てみる。
この幼さで、この長さと来たら、きっと髪を切ったのはあったとしても一度位だろう。
自分の髪の色とは反対色になる、この空色の髪を、私は一度でも良いから結いてみたかった。


「閨、髪切りたいの?」

「え?あ、まぁ・・・」


はい、切りたいですわ。
ええ、切りたくて仕方がないんです、お願いします。

・・て、違う!!

この少女は賢い。確かに賢いが、時々的を外し・・・まぁ、これ以上は自分の思考で幕が閉じそうなので自主規制します。


「えっと・・・私は髪を切りたいんじゃなくて、一度でも良いからみなもちゃんのこの髪を結いてみたいんですわ」

「結わく?」

「私の髪みたいに一つに結んだりすることですわ」


私の言葉に納得したように、みなもちゃんは頭を上下に揺らした。


「じゃあ、閨、みなもの髪、結んで」

「え!?良いんですの!?」

「うん。みなも、閨みたいが良いから」

「み、みなもちゃんっ」


普段無表情の比率が高い彼女が、照れたように頬を赤くすると、もーれつに抱きしめて癒されたい感情が溢れてきたのは、何とか抑えて「じゃあ、ちょっとジッとしててくださいですわ」とか言って、私はみなもちゃんの髪を結い始めた。


「す、凄いですわ」

「凄い?」

「思った通り、髪がサラサラで結わくのが・・・」

「・・大変?」


あ、折角言うの抑えたのに。
とか、心中思い、そのまま結わくのは難しいと分かり、懐から愛用の櫛を取り出した。


「痛かったら、痛いって言ってください」


コクリ、頷いたのを見て、ゆっくりと全体的に櫛をかけていく。

スッ、サラサラ、
スッ、サラサラ、

そんな音が今にも聞こえてきそうなくらい、本当に綺麗な髪に思わずうっとり。
みなもちゃんは、私と同じ一つにするよりも、二つに結いたほうが可愛いかも・・など色々な出来上がり案を頭に並べ、ちゃくちゃくと作業をしていると、すぐそばから聞き覚えのある声が耳をすり抜けた。


「あ、みなもがねーちゃんに髪剥いてもらってる!」

「それを言うなら、結いてもらってる、だろ」


烏頭目さんと蝶左さんが大量の枯葉や枯木を持って、こちらに歩み寄ってきた。


「あ、烏頭目さんと蝶左さん。それは・・・焚き火の材料ですの?」

「うん!こじゅが、今日はヤドカリって言ってたから」

「宿無しね。姉ちゃんはガキの髪なんか結いてどうするワケ?」

「みなもが、頼んだ」

「え!?みなもちゃん、それは」

「いいの。みなも、嬉しい」

「みなもちゃん・・・」


私も・・・こんなに、みなもちゃんと仲良くなれたんだ。
感動しすぎて涙が出そうになったが、髪を結わく手は止めたくないのでグッと我慢。
半分に分けて、右に持ち上げた髪に用意しておいた髪結い用の紐を結びつけていく。


「うぉー!!みなもの髪が分かれた!!」

「姉ちゃん器用なワケ。」

「ありがとうございます」


一回、二回と何回か結びつけて、ほどけないように最後にきつく結んで、片方を仕上げる。
そのまま流れる様に、今度は左に避けておいた髪を上に持ち上げてバランスを整えていく。


「わっ・・・」

「ちょ・・・」


徐々に完成に近づくみなもちゃんの髪結いに、目の前で見ている烏頭目さんと蝶左さんが訳の分からない声を出し始める。


「え、ちょっと・・・」

「これは・・・」


先程使った髪結い用の紐を、左にも結びつけて、キュッと締める。


「よしっ・・・完成ですわっ!!」


ふわり。
座っていたみなもちゃんが立ち上がると共に揺れる二つの空色。
目をパチパチさせるその様子は、珍しく子供らしい反応で思わず頬が緩む。
そんな少女を見つめる・・を通り過ぎてガン見している男二人に手鏡を渡した。


「みなもちゃんに、渡してあげてくださいですわ」

「う、うん・・・」


はい、みなも。
烏頭目さんから手鏡を受けとったみなもちゃんは、まじまじと自分の髪型に鏡を照り合わせる。


「二つ、閨と違う」


不満気な顔で私を見つめるみなもちゃんに、そっと耳打ちをしてあげる。


「みなもちゃんは二つの方が似合いますわ」

「・・・でも」

「今のみなもちゃん、とっても可愛い女の子ですわ」


そう言うだけで、彼女の顔はふんわり桃色に染まる。
もじもじとし始める少女は、きっと他に求めているものがあるのだろう。
だって、時折ちらっと烏頭目さんを見ているのだから。


「烏頭目さん」


私の言葉に烏頭目さんとみなもちが同時に反応する。
あ、蝶左さんの肩が震えてる。


「あ、その、みなも・・・」


ぽりぽり頭を掻いたり、視線を泳がせる烏頭目さん。
まるで、今から好きな子に告白します、的な状況に私は笑みが耐えず、ニコニコと二人を見守る。


「あ〜・・・うん。みなも?」

「うん、何?」

「か、か、か、か、可愛いな!!」


二カッと笑顔が烏頭目さんの顔に出ると、今度はみなもちゃんが挙動不審に。
あ、蝶左さんから後ろ向いて肩震わせてる。
ブフっ、とか聞こえたのは気のせい?


「じゃあ、私はこれで」

「え?閨・・・」

「私、用事があるんでしたの。暫くしたら戻りますわ」


じゃー、俺も用事ー。
と言う蝶左さんの声が聞こえた。





ーENDー

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