いつわり短編
□どっちが良い?
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「どっちが良いと思います?」
不意に聞かれた質問に、柄にもなく戸惑う自分に嫌悪を抱いた。
「ん、あぁ・・・一応着てみるんがええんちゃう?」
「まぁ、その手がありましたわ。じゃあ、一度試着してみますわ」
店の奥に消えた彼女を確認し、ワシは盛大な溜め息をついた。
事の始まりは、今から数刻前に遡る。
数刻前の無様なワシは、久しぶりに取れた宿にはしゃぎ回る烏頭目に便乗し、走り回ったり、薬馬を蹴っ飛ばしたり殴ったりしていた。
途中怒られたりもしたのだが、そんなことは気にもせずふざけ回っていた。
だから、まぁ、その、全く前を見ていなかったし、珍しくドジを踏んだのだ。
『ドンッ!!ビリッ・・・』
何かにぶつかった音に繋がる嫌な音。
何となく予想しつつも目の前を見れば、痛そうに頭をさするねーちゃんの姿とそれに着せられていた筈の、破れてはだけた着物。
・・・あとは言わずもがな分かるだろう。
薬馬にしっかりと説教を受けたワシは、罰として新しいねーちゃんの着物をねーちゃんと買いに来たわけだが。
「・・・あん時の自分に伝えたいわ・・・」
「何を、ですの?」
ほらほら、言ってるそばから来ちゃったよ。
「まずは、薄い桜色の方を来てみたんですけど・・・どうでしょう?」
あー、数刻前の己を呪いたい。
「ぁ、ぁぁ、ええんちゃう・・.?」
白々しい返事だ。全く。
でも、今の自分にはこれが精一杯の発言。
「そ、そうですの?じゃ、じゃあもう片方の着物も着てみますわ」
ワシの言葉に頬を赤らめるねーちゃんに、ワシは胸が高鳴る。
ぁぁ・・・不覚だった。
想像以上に似合ってたわ、あの桜色。
思わず素っ気ない返事しかせぇへんかったけど・・・
ワシが顔赤くなっとるのばれてへんやろな・・・
「空さん、着てみましたわ・・・あ、あの、どうでしょう?」
「っ・・・!!」
あぁぁぁあぁあ!!
反則や、これぇぇえぇ!!!
「初めて白い着物着たんですけど・・・やっぱり似合いませんわよね・・」
「え!?似合っと・・」
言いかけて止めた。
「・・せやな。やっぱり、さっきの桜色の方がねーちゃんらしくて、ワシはええと思うわ」
「そ、そうですわよね!じゃあ、あれにしますわ」
あぁ・・・もう、本当に不覚やった。
言えるわけないやろ。
白い着物着たねーちゃんが美し過ぎた。
・・・なんて。
ーENDー
(そないな格好、ワシ以外には絶対見せるなや)