いつわり短編

□朝はご用心
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「おはよぉ、ねーちゃん……」
「あ、おはようございます」


ソファで今週号の雑誌に目を通していると、眠そうに瞼をこする青年がゆっくりとリビングのドアを開けて入ってきた。


「珍しいですわね、空さんが休日に早く起きてくるなんて……」
「ん〜……」


今日は、二人の仕事の休みが唯一重なる日曜日。
二人とも別々の会社に勤めてはいるものの、空は日曜日以外はずっと勤務の為、必ずと言って良いほど日曜日の朝はずっと部屋にこもっている。
その分閨は、日曜日と水曜日が休みの為、日曜日の朝はのんびりと雑誌に目を通す……と言うことが日課になっていた。


だから今日は驚いた。


日曜日に空がこんな早くに起きてくるなんて、今までになかったから。


「空さん?まだ寝てて良いんですわよ?……7時半ですし……」


ちなみに閨は早起きである。


「ん〜……眠いわぁ〜…」
「きゃっ……!!ちょ…空さんっ…」


寝ぼけ眼の空は、フラリと歩いたかと思えば、そのままソファにいる閨に抱きついた。


「んぅ〜…ねーちゃん、身体冷たいのぉ〜……」


体温は低くとも、顔面は高温を維持している。




「わ、わかりましたからっ…は……離れてくださいっ」
「ん〜?離れたらねーちゃん寒いやろぉ〜?」
「さ……寒いとかの問題じゃありませんわっ!!」


すると、閨を抱きしめていた空は少しだけ顔を離し、ムスゥ〜と頬を膨らませて閨を睨み付けた。


「……じゃあ何の問題があんのや」
「え!?……それは……」
「なーんーの?」


最悪な苛めだ。


「〜〜〜……嘘ですわっ!!」
「うん、それでエエ」


空は満足そうに微笑むと、再び閨を抱き締めた。


「は……反則ですわ……」
「ん〜?何がや?」


あんな……あんな無邪気な子供みたいな顔をして言われたら、本音など言うにも言えまい。


「……何でもありませんわっ!!」
「……ふぅ〜ん……ま、エエけどー」
「(何か気になる部分がありますけど……まぁ、そこはスルーしま)ヒギャッ!?」

「なんつー声出しとんのや…」


だ……だ……だって……


「舐めたぁぁぁぁぁ!!!」


油断した瞬間、耳の中に入れられた生暖かい……ヌルリとした感触。


「舐めたらアカンのか?」
「だ…駄目って言うよりも……」
「ん?」

いつの間にしっかりと覚醒したのか。
この、人をおちょくるような声は……それを考えただけで、今自分の耳元に顔を寄せている空の表情は、絶対ニヤニヤしていることが安易に想像出来た。


「変態……」
「ん?今何か言うたか?」
「い、いえ!!何にも言ってませんわぁ〜」


動揺が身体に出ているせいで、プルプルと不自然に全身が震えてしまう。

だが、これが空の理性と言う名の歯車を崩壊させた。



『The★ドS本能』発狂。



「…………嘘つきには……」
「ヒャッ!!」


ふいに、自分の服の中に忍ばせられた空の手に、思わず身震いが走る。


「オシオキが必要や」


平和な朝が一転、閨にとって地獄の一日の幕開けとなる瞬間だった。






-END-

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