いつわり短編

□白犬の恩返し?
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―――


『バタンッ…』


傘をさしたとは思えない程に、洋服と髪からは水が滴り、玄関は水浸しになった。


「ふぅ……」
「……クゥン……」


か細い声で鳴く小犬の身体は、耳を垂らし、悪寒に近い震えは更に強くなっていた。


「まず……一緒にお風呂に入りましょう。それからご飯ですわ」


ペタペタと濡れた足で、バスルームへと女学生は向かった。
しかし、はたとドアの前で立ち止まった。


「あ……あなたお風呂大丈夫ですの?」


犬はよく水を嫌う。
だから、湯で満たされたお風呂などもってのほかだ、とよく耳にするため、一応聞いてみた。


「……クゥン…?」
「?……それどころではありませんわね…。よし、入りましょう!」


小犬を強く抱きしめ、ついでに自分も暖をとるためにそのままバスルームへと入った。



―――


「あ……あなた…」
「クゥン?」


お風呂から上がり、改めて仰天した。


「白色……」


お風呂に入る前とはまるで違う真っ白な毛。


「綺麗な白色の毛ですわね……」


思わず見とれてしまい、小犬が、キャン、と鳴くまで我に帰ることを忘れていた。


「はっ!!思わず見とれてしまいましたわ……」


女学生が小犬から目を逸らすと同時に、小犬のお腹が愉快な音を鳴らした。


『キュルルルル……』

「あ!ご飯をまだあげてませんでしたわ!」


パッパッと洋服を着、今度はキッチンへと向かった。


「……牛乳を温めて……ひゃっ!!」


足に感じた濡れる感触に、身体がはね上がった。


「……クゥン?」
「び……びっくりしましたわ…」


足の違和感は小犬の舌だった。
舐めては頬を擦り付けを繰り返し、女学生になついたことを示す行為を小犬はしていた。


「もう少し待ってくださいですわ。今温めますので……」


手にした牛乳入りの皿をレンジに入れ、温めボタンを押した。


「……そういえば…名前を言っていませんでしたわ」


足元にいた小犬を己の目線の高さまで持ち上げ、そのまま優しく微笑み、女学生は自分の名前を口にした。


「私の名前は六兎閨。今は近くの大学に通っていますわ。あ……歳は19ですわ」
「クゥ……キャンッ!!」
「きゃ…くすぐったいですわ」


まるで意味を理解したかのように、小犬は閨の顔を舌で舐め、小さな尻尾をブンブンと左右に振った。


「あ…あなたは……?」
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