いつわり短編

□例えば
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寒さが深まる秋の夕暮れ。
一行はある村の小さな宿に泊まっていた。

そんなある一時、珍しいことに、宿の縁側で閨と空が二人肩を並べて座っていた。




「例えばの話や」


空は閨の顔を見つめ、唐突に呟いた。


「ワシがねーちゃんを好きや言うたら、どないする?」
「へ?」
「いや、へ?、やないねん」
「そ、そそそそそそっ……それは…仲間としてのす……好きですの!?」


顔を真っ赤にしてパニックになる閨とは対照的に、空は頑として真剣そうな顔をしていた。


「……性的な意味での好きや」
「せっ……せっ……性的な意味ですの!!?性的な意味とは何ですの!!?」


わたわたと手を振り回し、目をぐるぐるとさせて更にパニックに陥る閨の頬を、黙って見ていた空の両手が優しく包んだ。


「きゃっ……」
「性的な意味?それは男とお」
「や、やっぱり言わなくて良いですわっっ!!!……そ……それよりも手……」


頭から煙まで出し始めた閨を見て、ぶふっと吹き出した空。


「な……何が可笑しいんですの!?それよりも手……手を離して…」
「……何で離してほしいんや?」
「な…何でって……」


「理由があるんやろ?言うてみいや」


ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、空は閨の顔をグイッと自分の目の前まで近寄せた。


「わ……ちっ、近すぎますわっ!!!」


閨は初めての近距離に堪えられず、思わず俯いてしまった。


「じゃあ、ワシの手ぇ取ればええやろ?」
「っ!!……は、離してくださいですわ」


閨が空の手を剥がそうと己の手を伸ばすと、案の定空に掴まれてしまった。


「やっ……」
「え……嫌なん…?」


悲しそうに眉を下げる空を見て、急いで閨は否定の言葉を発した。


「え……あ……嫌じゃ……ないで」
「じゃ、ええな?」


え?、と顔を上げると視界が真っ黒に染まった。


「う……空さんっ!!?」
「……ねーちゃん……」


耳元で聞こえる空のものとは思えない甘い声に、閨は全身が熱くなった。


「……返事…」
「返事?」
「ワシがねーちゃんのこと好きだって言ったらってやつ……」
「そ……それは……」


しどろもどろしていると、空が閨を抱き締める腕の力を強めた。


「…く……苦しいですわ…」
「じゃあ返事」
「………そんな……言えませんわ…」
「恥ずかしいからか?」
「なっ……!ち………」
「ち?」

「ち………違……違います……わ…」


閨の言葉を聞いて、空はニヤリと二度目の悪い笑みをまたもや浮かべた。


「違うんか?じゃあ、はよ返事」
「う……それは……」


ずっと抱き締められたままで、既に閨の意識は何処かへすっ飛んでしまいそうな程に、上がっていた。


「……それは……その…」
「………じゃあ、ねーちゃんが返事言うまで、ワシねーちゃん離さんわ」
「え!!」


そんなことされたら死んでしまう。


と閨は内心思うが、空は本気らしく、腕の力は先程から全く緩まない。


「………わ…分かりましたわ…言いますわ……だから、一回私を離してくださいません?」


すると、空はあっさりと閨を解放し、早く教えろ、と言わんばかりの顔面をした。


「………や…やっぱり言えませんわっ!!!」


ダッとその場から逃げようと閨は走ろうとしたが、もちろん空により止められた。


「きゃっ!!んっ……」


腕を引っ張られたかと思えば、唇に変な違和感。


「……ねーちゃん……ワシは本気や。例えば言うたけど、例えばちゃう。ほんまのことや」
「空……さん……」


触れるだけのキスに、呆然としていた閨だったが、目の前の空の真剣そのものの表情に、閨はぐっと息を飲んだ。


「あの……空さん……私……」


そして、スウッと大きく息を吸い込み、空の求める答を出した。


「私も空さんが好きですわ……あ…せ……性的な方で……」
「……え……ほんまか…?」
「……ほ……本当ですわ」
「ほんまにほんまか!?」
「本当に本当ですわ」
「ほんまにほんまのほんまか!!?」
「本当に本当の本当ですわ」


一瞬の沈黙の後、空はゆっくりと閨を抱き締めた。


「ほんまか………ほんまに……ほんまなんか……」


空は幸せを噛み締める様に、閨の頬にキスをし、頬擦りをしたあと閨の肩に己の顔を埋めた。


「…空さん……私嬉しいですわ……」


二人が想いを交わし、微笑みあっていると、近くの襖の隙間から何やらコソコソと声が聞こえてきた。


「おい、押すな」
「んー、蝶左見えないよー」
「閨……おめでと……」
「ねーやん……抜け駆けかしらん…」
「大丈夫だよ、姫さんには俺がいるから」
「ちょ……お前等煩いぞ…」
「空さーん」


よく知るメンバーの顔が全体の100%。


「もー見えないよ俺ー!」
「あっ、ちょ……」
「うわっ……あ…やべえっ!!!」


しかし、お決まりの結末。


『バターンッ!!!』

「痛ぇっ!!」
「痛たたたたたたたた!!」


烏頭目が乗り出した勢いで、襖が外れ、全員は、ドタドタと団子状態で縁側に飛び出した。


「あ……空……それに閨も…」


アハハ……、と冷や汗をかきながら、ぎこちない笑みを浮かべる薬馬。


「………おい、ねーちゃん…」
「はい…空さん……」







この後、薬馬達が空と閨により、激しく痛め付けられたのは言うまでもない。














「「ギィヤァァァァァァァァッ!!」」





-END-

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