いつわり短編
□季節と共に…
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無限に回り続ける季節のループ。
新しい命が芽生え、人達が陽気になる優しい春。
命が活性化し、働く人達で世が賑わう明朗の夏。
命が色づき衰弱し始め、段々と静かになる人達の中で進む微睡みの秋。
命が安らかに眠り、暖かさを求めて、人達がより絆を深める静寂の冬。
そんな季節達に包まれて、旅を続ける空一行にも、静寂の冬が訪れた。
「おい、空……そろそろ陽が沈むぞ?」
「なんや?もうそないな刻か」
冬は陽が沈むのが早い。
さっき歩き始めたと思えば、たちまち辺りの空は薄暗い闇に染まり、朝に降った雪のせいで空一行の身体を、寒さが蝕み始めていた。
「…寒いですわね……」
「あかんのぉ……はよ宿探さんと……」
しかし、空は言うだけ言って全く動かない。
「……?おい空…宿探さねえのか?」
口から白い息を吐く空は、ハ?、と言うような顔をし薬馬を蹴っ飛ばした。
「って!!何しやがん」
「いちいち言うとらんで、おどれが宿探し行きいや」
「えー!?最近俺の扱い酷くねーか、オイィィィイ!!」
キィィィィィと奇妙な声を上げつつも、薬馬は近くの村に宿があるか聞きに行った。
「あの…空さん……何で薬馬さんにはあんなに酷い態度をとるんですの?」
「ん?………なんや急に……知りたいんか?……理由」
空の言葉に閨はゴクリと唾を飲み、小さな声で答えた。
「し……知りたいですわ……」
すると、空はニヤリと笑いスウッと息を吸い口を開いた。
「理由はな……」
「………」
「あらへんわ」
「へ?」
空の答えにすっとんきょうな声を上げた閨を見てゲラゲラと空は笑い出した。
「ぶぁはははははっ!!理由なんてあるわけないやろ!!あれはただ単にワシが薬馬で遊んどるだけや!!」
「なっ……ひ、酷いですわ空さん!!私ずっと気になっていたのに……」
「ぶぁはははははっ!!」
そんな二人の元に何も知らずに戻って来た薬馬は、珍しく頭をポリポリと掻き酷く項垂れているようだった。
「ぶぁはははははっ!!……おぉ薬馬やないか!宿あったんやろうな?」
しかし、薬馬は空と目を合わさず、さっきから視線を宙に漂わせている。
「………その……実はな……」
「?」
「………てな訳で……」
「なんやとぉぉぉお!!!?村が狸嫌いやて、ワシらを泊めんゆうとんのかぁぁぁぁあ!!!?」
「……まあ……だから……今日は野宿ってことで……」
しかし、空はぽちを無下にした村にキレ、今にも暴れ出しそうな程にギリギリと歯軋りを繰り返している。
「空さーん…ぽちー何かー悪いことーしましたかー?」
『ブチッ……』
何かのキレる音がした。
「おぉい薬馬ぁぁああ!!!もっかい土下座して、全裸で走り回ってもエエから頼んでこいやぁぁぁあ!!」
「えっ、ちょっ、何言ってんの!?無理だからね!?いやまじ無理だからぁぁぁぁあ!!」
あれから何刻が経ったか……
一行は川が側にある木陰に身を潜めて、結局野宿をするはめになっていた。
「………おどれがあかんのやで」
「………俺じゃねーだろ………っくしゅ…」
あの後、二人はお互いにキレあい、もみ合い殴りあいとしているうちに、側にあった田圃に薬馬が空に押された弾みで見事に落下し、しかもその田圃は狸嫌いの村のもので、どっちにしても宿には泊まれなくなったのである。
「全く……空さんはもう少し薬馬さんを敬うべきですわ……」
閨は、己の着ていた着物をブルブルと身体を振るわす薬馬の肩にパサリとかけた。
「ぉわっ!?駄目だ、閨!お前が風邪ひいちまう」
「大丈夫ですわ。私、これでも身体は強……ヒャッ!!」
急に悲鳴を上げた閨の頭には、白い塊がグシャッと崩れて乗っかっていた。
「……雪?」
片手で頭をはたくと、ひんやりとした微粉末が風に乗って鼻をかすった。
「………誰ですの?」
チラリと薬馬を見てみるが、フルフルと顔を横に振り、違うと否定した。
「……空さん?」
「……なんやねーちゃん?どないしたん?」
空も本当に知らないと言った顔で、不思議そうな顔で閨を見つめた。
「?…木から落ちたのかしら?」
上を見上げると、緑に紛れて白いものがチラチラといくつか見えた。
「………寒いですわね……」
閨が一人呟くと同時に、一行の中から静かな寝息が二つ聞こえてきた。
「薬馬さん……ぽち……」
普段滅多に最初に眠りつかない薬馬が、ゴロンと横になり、長い睫毛が呼吸のたんびに揺れていた。
ぽちは空の腕の中で鼻提灯を膨らませ、可愛い寝顔を浮かべている。
「……今日はいっぱい歩きましたものね……私も……寝むたいですわ……」
パチパチと赤く光る焚き火を見つめていた閨が、ゆっくりと寝転がろった。
いや……寝転がろうとした。
『むにっ』
「いひゃっ!?」
寝転がろうとした閨の頬を、空が引っ張ったのだ。
「な……なにひゅるんへひゅほ!?」
「カカカカカッ!!何言うとるか全くわからへんのぉ……」
いつの間に側に来たのか、空はニヤニヤと笑い、もう片方の閨の頬も、むにっ、と引っ張った。
「いひゃひゃひゃっ!!いひゃひへふ、ふふほはんっ!!」
ブンブンと手を振り、痛がる閨を空は笑って見つめている。
「ほ…ほう!!ひはへひへふはっ!!」
「っ!?」
変顔状態の閨が、仕返しとばかりに、隙だらけの空の頬を片手で引っ張った。
「いははははは!?ねーはん、いはいは!!」
「ま…まはまはへふは!!」
そのまま閨はもう片方の手で、反対側の空の頬を掴もうとしたが、引っ張るのをやめた空の手により遮られてしまった。
「ず……ずるいですわ!!」
「カカッ!!ねーちゃん、顔が赤いで」
「!!!」
引っ張られて赤いのか……それとも……
「あ……赤くなんかないですわ…」