いつわり短編

□素直に
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あの日は……どこまでもすみわたる様な、広い広い青空の日だった。


―――

「ねぇねぇ、君」

優しそうな顔をした若い男二人が、まだ幼かった自分に笑顔で話しかけてきた。

「……?僕のこと?」
「そうそう」
「ねぇねぇ…ちょっと聞きたいことがあるんだよ。君に」
「僕に?」

男達は、ずっとニコニコとしていたから、何の疑いもしなかった俺は、そいつらにまんまと騙された。

「……えーと、それは……でこれは……だよ?」

家の間取りに使用人の数……とにかく俺は、聞かれたことに対して、偽りも無しに素直に答え続けた。

「……そうなんだ。君に聞いて良かったよ、ありがとう」








思えば……あの時気付くべきだった…。


どうしてあの男達は数人いた子供の中で、俺だけに話しかけてきたのか……と。


「おかあさん………?……おとうさん………?」

鼻にこびりつく生臭い血の匂い……。

「おかあさん!!おとうさん!!」

………辺り一面に広がる無数の死体に紛れる親の姿。
父は母を守るかのように、母の上に折り重なって倒れている。

「どうして……死んでるの…?……皆は!?」

台所……隔離部屋……個室……広間……どこを探しても、血、血、血、血……。

「……皆……死んでる……?」


そんな……嘘だ……
だって……

「………皆……」

視界が霞み始める。
すると、ポタリと何かが自分の瞳からこぼれ落ちた。

「………あ……あ……うあぁぁあぁああぁぁあぁっ……」

……涙が止まらない。

「うぁぁああぁっ…あぁあぁっ…」

……どうして……何で皆が……

「だ…誰だ君は!!?」
「うっ……あぁぁっ……役人さっ……ぁぁあぁあっ…」

いつの間に家に入りこんだのか……。
泣きじゃくる俺の前には、事件現場を見て立ち尽くす役人達がいた。

「……こ…これは……」
「酷すぎる………」

あまりに残酷すぎる現実から目を背けるように、役人の一人が俺を抱えて家から連れ出した。

「うぅっ…おかっ……さん……と……おとっ…さん……はっ……??」

だが、役人は俺の言葉には何も答えず、ただただ俺を抱き締め、頭を撫でた。

「……残念だ…」

それだけ言い残すと、役人はまた残酷な現実に戻っていった。











「聞いた……?あの官吏一家全滅事件……」
「聞きましたわよ……何かお金目当てだったらしいとか…」
「あらやだぁ……私も気をつけないと……」

あの事件から7日経った……。
噂が広まるのは早い。俺は町を歩くたびに耳がもげ落ちそうだった。


「大丈夫かい、君……」

事件処理が終わり、亡くなった両親達も一人ずつ埋葬様の桶に入れられた。

「…………………」

父と母が眠る桶の前に座ったまま動かない俺は、ここ数日でかなり変わってしまった。

「……まぁ、急に元気になれって言う方が無理か……」
「…………………あの男達……」
「男達?」

やっと口を開いた俺に、付きっきりで話しかけてきていた役人が大きく反応した。

「………犯人が家のこと……詳しく知ってたって……」
「………なんでそれを……まぁ確かに詳しく知っていたな……。家の間取りや使用人の数……その他にも色々知っていた」

………俺のせいだ……

「………俺が……素直に喋ったから……俺が……素直で……偽りを知らなかったから……」

役人にも聞こえない様な声で喋ったから、役人はむぅ……と今も考え事に浸っていた。

「俺は………もう素直にならない……」
「………ん?どうしたんだ急に?」

何も知らない役人は、不思議そうな顔をしているが、そんなことは知ったこっちゃない。

「ううん……何でもないです……」

これが俺の最後の素直だった日……。
そして事件から10日後の朝、俺………ワシはジジイに引き取られることになった。



―――


「………エエ天気やな…」

今もこうして青い空を見ていると思い出す。

「………皆…元気かのぉ……なぁぽち」
「?そうですねー、ぽちはー元気ですよー」

ジジイも死んで、ワシは結局一人になってしもうた。

「あ、てめ空!!それ俺のだんごじゃねーか!!」
「なんや薬馬……別にだんごぐらいええやないか」
「そうですわ薬馬さん。だんごくらいいいじゃないですの」
「そうでーす、ケチケチはダメでーす」
「ちょっ……俺って何なの!?てか、ぽちまで!?」



そうや……ワシは
一人になってしもうたんや……




………一人……






「ぷっ……」
「は!?」
「ぶぁははははははははっ!!!」
「う……空さん!?」
「おい、なんなんだ一体!?」





ちゃうな……。




「………ははっ……」




ワシは一人やないわ……。




「薬馬の馬鹿っぷりに腹がちぎれるわ!!」
「なっ……てめ…だんごかえせ!!」
「おかーさま、らんぼーはダメでーす」
「そうですわよ薬馬さん!乱暴はいけませんわ」
「いや、だから俺なんもしてないよね!?」






こんなにもおもろい奴等が側におったわ……。






「……はは………なぁ……ぽち……」
「?なんですかー?」



……これからも………



「……これからもよろしくな……」
「?ぽちはずっとよろしくでーす」
「わ……私もよろしくですわ!」
「何か知らねえけど、俺もよろし」
「お前はどうでもええわ」
「えぇーーーーーーーー!!?何で俺だけ………?」



だから……
今だけは……








「…素直でいさせてや……」











-END-

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