いつわり短編
□もしまた会えたら
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「…………空くん……ぽち……皆…」
……緑の髪に、黄色い猫目……
その男は、小さな石が数個立てられてある、公園の隅に一人立っていた。
「……もう……君たちが死んで500年以上が経ったよ……」
……弐猫控……
歳をとらず、死ぬことが出来ない男。
……言わゆる不死身の身体をしている。
そんな男は、瞼をふせ、静かに『その石達』に語り始めた。
「……もう……こんなに世界は変わってしまったよ?……昔は草で一杯だったここも、今じゃあ小さな子供達の遊び場になった……」
うっすらと目を開き、酷く懐かしい様な、哀しい様な顔をして、ここへ来るときにコンビニで買った、団子のパックと饅頭の入った袋を石の前に置いた。
「……今の時代じゃあ、中々本格的な茶屋さんが無くて……これで我慢してくれる…?」
だが、控の言葉に石からの返事は無い。
「ふふ……ありがとう……」
返事は無くとも、控はクスッと小さく笑い、また哀しそうな顔をした。
「……今になって思うよ……不死身なんて全く幸せなんかじゃないんだって……」
控は、自分に買った缶コーヒーを開け、ゴクリと一口、喉に通した。
「……そりゃあ、最初は良かったよ……。何をされても死なないし、若いままだし………でも……やっぱり時は進んでて……若かった空くん達はどんどん老いていって……」
緩やかに吹く風が控の髪を揺らす。
「……気付いたらさ……皆いなくなってたんだ……」
……皆が老いても、己は若いまま。
……皆が死んでも、己は死なない。
「……寂しいなぁ……」
うずくまる控は、まるで親を無くした、小さな子供の様だった。
「……また会いたいよ…皆に……」
そのまま…暫くの間控は、その場に座って、一人返事もない静かな会話を続けていた。
―――
「……もう…帰らないといけないや……」
気付いたら、辺りは真っ暗で、控は名残惜しそうに石の前から立ち上がった。
「……じゃ、また来るね…」
それだけ言うと、控は石に背を向け、ゆっくりゆっくりと歩き出した。
「また……来年……会いに来るから…」
そして、男は冷たい夜風に当たりながら、無人の公園を後にした。