いつわり短編
□ぽちの憂鬱
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「空さーん……」
ぽちの小さな呟きが青い空に吸い込まれていく……。
「じゃあ、ぽち。エエ子で待っとれよ?」
……そう言われたのは二カ月前。
空がとある里に用があるからと、自分を置いて、そのままいなくなってしまって、もう結構な時間が経った。
とても……とても長い時間……。
でも、ぽちは一人待つ。
あの嘘つきに出会って、ぽちは悪い嘘だけじゃなくて、良い嘘と言うものがあることを初めて知った。
だけど……
良い嘘と言うのは、凄く都合の良いもので……。
こんなに寂しくて、胸が苦しいのに、あの『待っとれよ』という言葉のせいで、淡い期待を抱いてしまう。
「空さーん……ぽちはー……ここで待っていますよー?」
早く……早くあの大きな腕の中に潜りこみたい……
母を無くして、一匹さ迷いそうになった所を、あの嘘つきは救ってくれた。
あの腕に抱かれると、よく側にいた母の尻尾に包まれているようで、酷く安心することが出来るのだ。
でも、貴方は来てくれない……。
まだ子供で、ろくに狩りが出来ない自分……。
でも、貴方に会いたい一心で必死に毎日を生き延びる……。
「……空さん……どこに行ってしまったんですかー……?」
小さな狸の小さな声は、
急に吹いた風にかき消されていった。
-END-