D'Gray-man

□ブックマン
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ブックマン……

見たもの聞いたもの全てを瞬時に記憶する能力を持つ種族。



「なぁ、ジジィ…」

「なんじゃ?」

「何で俺ってブックマンなの?」

「…………それはお前が一番わかっている筈じゃ……」

「…………」



今までに使った偽りの名前。

48個使って、その全部を俺は頭に記憶している。


ブックマン故の、常人以上の記憶力。

一度見たもの、聞いたものは全て頭の中から消されない。


だから俺は、このブックマンと言う血筋が嫌いだった……。


―――


「ラビ、こんなところにいたんですか!!」
「アレン……どうしたんさ?」
「リナリーがケーキ焼いたから、ラビもどうかなって」


アレン・ウォーカー。
存在自体が対悪魔武器と称された、まだ15歳の少年。


「……ラビ?どうかしたんですか?」
「ん?……いやぁ、ちょっと考え事してたんさ…」
「……考え事ですか……。ま、そんな事よりリナリーが待ってます。早く行きましょう!」


ニコニコといつも笑顔を絶やさない。

その笑顔の裏に、どれだけの闇を抱えているのか……想像がつかない。


「今日はチーズケーキだそうです!僕がチョコレート駄目だって言ったら、チーズにしてくれたらしくて」
「……俺はチョコレート好きさー」
「ぼ…僕も好きですよ!ただ、師匠に絶対食べるなと言われているので……」
「お前……本当にチョコレート食べた後に何したの……」


アレンは、分かりません、と頭を横に振り、また食べたいなぁ……、などと呟いていた。




「……あ、アレン君!!あとラビも!!」


遠くの方で手をブンブンと振っているリナリーは、アレンとラビの元へ走ってきた。


「もう、アレン君遅いよー!!早くしないとチーズケーキ、化学班の皆に全部食べられちゃうよ!!」
「え!!?そんな……リナリーのチーズケーキィィィィッ!!!」
「あ、ちょ、アレン!!!」


アレンは猛ダッシュで化学班がいる研究室に走っていった。


「……ほんと……アレンは食べ物のことになるとキャラ変わりすぎだろ……」
「うん……あれ…ラビ……何かあった?」
「え……?」


アレンといい、リナリーといい……
どんだけ人のこと見てんだよ……


「……別に……ブックマンって何なんだろう…とか思ってさ……」
「……ブックマン……辛いよね…」
「リナリー?」


辛い……ブックマンが?


「……だって…見たくもないものを見て、しかもずっとそれを覚えているんでしょ…?……私だったら堪えられない……」
「………見たくもないもの……ね…」


確かに俺が見てきたもののほとんどは、戦争だとか、AKUMAとか、争い関係ばかりだ。


だけど……


「見たくもないものだけじゃないさ……」
「……でも戦争とか……人が死ぬところを見てるんじゃないの?」
「………まぁ、確かにその通りさ…」


だからこそ……


そんな中で素晴らしいものを見つけることが出来る…。


「……ブックマンはさ……凄い記憶力だから、大切なものとかもずっと頭にしまいこまれるんさ……」
「大切なもの……?」
「うん……」


例えば……


「例えば……リナリーとアレンが幸せそうにしてるところとか……ジジィが嬉しそうだったりとか……」
「ラビ……」
「……ま、ブックマンに生まれたからにはそれがつきもんさ!……あっ……」


ラビが突然すっとんきょうな声を出して、涙目でリナリーを見た。


「え……?」
「リナリーのチーズケーキ……忘れてたさ……」




うぅっ…、と涙を溢すラビを見てリナリーは優しく微笑んだ。


「ふふっ……やっといつものラビらしくなってきた」
「…俺……らしい…?」
「うん、ラビらしい。」


『ラビ』らしい……
すなわち俺らしい……?


「あ、ラビ!もうチーズケーキ無くなっちゃいましたよ?」
「アレン君……」


いつの間に隣に来たのか、口の回りにチーズケーキのカスをくっつけた、満足顔のアレンが笑いかけてきた。


「……アレン君、口にチーズケーキがついてるよ」
「えっ……わ……恥ずかし……」


ゴシゴシと自分の手で口を擦るアレンと、それを見て笑うリナリーを交互に見つめながら、ラビは口を開いた。


「……何か……もう……よく分かんないけどさ……」
「……?」


クスッと笑ったラビは、ポツリと小さな声で呟いた。


「……お前等がいるなら……」



「……一生ブックマンでも良いかな……とか思った……」


ラビの呟きにアレンとリナリーは、顔を見合わせて、優しい微笑みを浮かべた。






-END-

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