モノクロ少年少女

□悪夢
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「…右京……?」


真っ暗な部屋。
灯りがあると言えば、窓ガラスから射し込まれる月明かりぐらいで……。


「右京……?右京!?」


寝ていたソファから急に身体を起こし、そのまま少女はうさみみを垂らしながら、迷子になった子供の様に『右京』と名前を呼びながら、寮の中をよたつく足で駆け回り始めた。


「右京っ!!右京どこ!?」


大きな瞳には大粒の涙を浮かべて、少女は真っ暗な廊下を走る。




「………チビブス……?」


流石はケモノ。
少女の声が直ぐ耳に入ってきた。


「今何時………真夜中じゃねーか……」


四人様のベッドを一人……一匹占領していたクロヒョウは、重たい瞼を擦り、ムクリとベッドから身体を起こした。
しかも、今日は月に一度の帰省日の為、声の主が誰なのか既にクロヒョウはわかっていた。


「右京っ!!右京どこにいるんだよっ!!」


近くにあったパーカーとズボンを着用し、徐々に近づいてくる少女の声に、右京は不審な顔をしながら、部屋のドアを開ける。


「何で起きてんだ…あいつ……」


しかし、右京はドアを開けた瞬間目を見開いた。


「う……右京……?」


ガチャリと開くドアにビクリと身体を震わし、瞳からは大量の滴をボロボロとこぼす少女。


「チビ…ブス……お前…」


右京は訳が分からず、とりあえず、腰を抜かした少女を抱き抱え、部屋に入り、電気をつけて、少女をベッドにゆっくりと座らせた。

しかし、少女は泣いたままで、泣き止む気配さえ無い。


「チビブス……」


右京は胸が締め付けられそうで、華奢な少女の身体を優しく抱きしめた。


「うっ……右京っ…?……右京なのっ……?」
「あぁ……」


すると、少女は更に泣きじゃくり、震える声で少年に聞き返した。


「本当に……?」
「……ほんとに……俺は右京だ…」


目の前にいる少年が右京だとわかった瞬間、少女の強ばっていた肩は一気に力が抜けていった。


「……怖い……夢を…見たんだ…」
「怖い夢?」


少年の腕の中にいる少女はコクリと頷き、震える声で呟いた。


「右京が……私の前から…いなくなる…夢……」


その言葉を聞いた右京は、悲しそうに眉を下げて、彼女を抱きしめる腕の力を強めた。
しかし、あの夢のせいで不安が隠せない少女は、ギュッと右京のパーカーを掴み、嗚咽と共に心中にある言葉をか細い声で叫んだ。


「……右京……いなくならないでっ……!!」
「!!!」


急な言葉に右京は一瞬驚いた顔をしたが、そのままゆっくりと口を開き、少女の耳元で囁いた。


「大丈夫だ……俺はいなくならない。ずっと呉羽……お前の側にいる…」


すると、呉羽は涙でぐしょぐしょの顔を右京に向けて、ほんと?、と小さな声で聞いた。


「……ほんとだ。今だってここにいるじゃねーか」


その言葉と右京の温もりに安心したのか、呉羽は今までが嘘かの様に、ゆっくりと瞼を閉じ、暫くすると静かな寝息をたて始めた。


「……いなくなる……か…」


呉羽の見た夢……もしそれが逆に俺が見た夢で、その内容が呉羽がいなくなるだったら……


そう考えただけで、右京は胸がはち切れそうだった。


「……絶対……ありえねぇ…」


そう呟くと、右京は呉羽を起こさないように、強く……強く抱きしめた。






-END-

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