モノクロ少年少女

□消えた灯
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「おい……チビブス…何で庇ったんだよ……」


……ピクリともしない小さな身体。
その身体からは赤い鮮血が溢れて、黒くて硬い地面を真っ赤に染めていく。


「……なぁ……聞いてんのかよ…」


遠くの方からサイレンの音が聞こえてくる。


「……う……きょ……?…」


ゆっくりと開かれた瞼から、虚な瞳が自分を探す。


「うきょ……どこに……いる……ん……だ?」


震える手が俺の髪を弱々しく引っ張った。


「……見えないのか?」
「……見えな……い……でも……何……となく……わかった……」


小さな手は段々と力を失い、俺から離れようとする。
でも、それを俺は許さない。


「……おいチビブス……ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ…」


自分でも知らず知らずに出た言葉に、呉羽はぎこちない笑顔で答えた。


「……死ぬわけ……ないだろ…?だっ……て……一緒に………ペアの……指…輪……買うんだから……」


余りにも悲しい現実に耐えられない俺は、もう先が長くないことを知らせる呉羽をキツく抱き締めた。




「う……きょ…?ど……した…?」
「うるせえ……それ以上……喋んじゃねぇっ……」





……不運だった……。

俺がケダ校を一位で卒業して、人間になったのが去年の今日。

そして、俺らが付き合い始めたのもその日だった。


だから、俺と呉羽はその二つのお祝いとして、都内で有名なジュエリーショップに行こうとしていたんだ。


……二人のペアリングを買おうと。



………なのに……


「「危ない右京っっっっ!!!!」」

『キキィィィィィィッ……』


気付いた時には、隣を歩いていた呉羽が地面に倒れていて、俺は何がなんだか分からなかった。


「………呉羽…?」


辺りは悲鳴とか、救急車とか、野次馬が煩くて……


「うきょ………ごめ……」


何で謝っているのか……
その意味が俺には分からない…。


「うきょ……のこと……守った……けど……」
「……庇ったのか…俺を…」


ああ……
だからこんなにも罪悪感が酷いのか……。







「………うきょ……泣いて……るの…か…?」
「泣いてなんかねえよ……」
「嘘……ばっか……泣いてる……じゃ…ん…」


腕の中から伸びる手は、俺の頬に伝う一筋の涙に触れた。



「……ごめ………う…………きょ………」



彼女の小さな声は、しっかりと俺の耳に届いた。



……呉羽の手がパタリと落ちる音と共に。





「……呉羽……?」


そんな……


「………おい……寝てんじゃねーよ……」


起きないなんて……絶対許さない…。


「………寝てんじゃねーよっ……呉羽っ!!!」




………ごめんね右京……




「呉羽……?」


声が聞こえた気がして、
思わず彼女を見てしまった。

……起きている筈などない彼女を。


「………呉羽……」


やっぱり起きている筈もなくて、
彼女の瞼は固く閉じていた。


「………うぁっ……呉羽っ………すまねぇっ……」


泣いても泣いても、
消えた命の灯は、または灯されない。


「うぁぁあっ……呉羽ぁっ……」



俺は呉羽を抱き締めて、ひたすら延々と泣き続けた。





-END-

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