いつわり長編

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『ガッ!…』

「うぐぅっ、……」

薄暗い空間にぼんやりと浮かぶ橙の光。
それに時たま紛れる鈍い音と小さな呻き声は、もうかなりの長い間続いている。

「痛いか?痛いか!痛くて痛くてどうしようもないだろう!」

『ドガッ!…』

再び刻まれる鈍い音に、弱々しい呻きが空間を泳ぐ。

「、ごほっ……」
「痛いだろう?痛いだろう!…安心しろ、もっといたぶってやるからな。内臓が破裂する程に…息なぞ出来なくさせてやる」

『ガスッ!…』

女王の足は少女の腹を幾度も蹴り続ける。
少女は手足が使えないせいで、もろに女王の蹴りをくらい、既に意識は朦朧としている。
それに比べて女王は、幼子がおもちゃを見つけた時の様な笑顔を浮かべ、それは痛みに耐える少女へと向けられる。

「もっともっと苦しめ…苦しんで苦しんで……死ねばいい!!」

『ガッ!ガッ!ガッ!…』

女王は気が狂った様に何度も何度もその足を少女の腹に打ち付ける。
少女は目を見開き、かはっ…と血を吐くとそのまま意識を失った。

「起きろ、まだ謝罪は足りていない!」

やつれにやつれた少女の面を片手で掴むと、女王は勢いよくそれを壁に叩きつけた。

「ぁがッ…ぁ、い…た"ぁ…」

鋭い痛みが頭に走ると、それはあっと言う間に鈍痛に変わり、少女は割れそうな程痛む頭に気がおかしくなりそうだった。

「まだまだだ。こんなもんじゃ私の怒りはおさまらない」

女王は蹴るのをやめて、予想以上に少女が痛がった…壁に頭をぶつけることを今度は連続でやり始めた。

『ガヅっ!ガッ…ガヅっ!』

「あ、ぁあ"ッ、いだ、いっ、や、め…」

女王はやめない。
少女の額には血が滲み、摩擦で髪が何本か抜け落ちる。
しかし、女王はやめない。

「死ね、死ね、死ね!!!」

『ガッ!!!』

強い衝撃が少女の頭に走った。

「あ"ッ、う"ぁ、ぁあぁあぁぁあ!!!」

あまりの痛みに少女は暴れ、暫くそれが続くとコテン…と頭をもたげ、何も言わなくなった。

それに声をあげたのは、女王。
………ではなく。

ずっと一人で灯を手にしていた女王の使いの少年だった。

「ネヤ……?」

少年はフラリと少女と女王のいる場所に近寄ると、何の動きも見せなくなった少女に歩み寄った。

「ネヤ、ねぇ?ネヤってば!!」

ゆさゆさと揺さぶるも、少女はピクリとも動かない。

「なんだお前は…罪人に情でもうつったか?」

女王が薄ら笑いを浮かべ、少女の頬に触れる。
しかし、それは少年により遮られる。

『パシンっ!!』

少年は少女に触れようとした女王の手を勢いよくはたくと、鋭い瞳で女王を睨みつけた。

「ネヤに触るな!!!」

少女を庇うように立つと、少年は持っていたたいまつを女王に向かって投げつけた。
女王はそれをサラリと交わす。

「なんだ貴様は……」
「黙れ、ネヤには指一本触れさせない!!」
「ハッ……笑わせる」

カランと渇いた音が空間に響くと、今まで辺りを明るくしていた橙がフッと消えた。
ぼんやりとしていた空間は、はっきりとした黒に変わった。

「…いいだろう…」

女王は笑う。嗤う。

「その娘もろともお前も殺してやる!!」

女王が少年に殴りかかろうとした瞬間、近場で大きな爆発音がした。

「な、なにごとだ!?」

急な出来事に動きを止めた女王。
その隙を見た少年。

「ネヤの仇!!」

どこに持ち合わせていたのか、少年は隠し持っていた短剣を取り出すと、勢いよくジャンプした。
運がいいことにここの地下牢は天井が高い。

少年は勢いそのままに、短剣を女王に振りかざした。

『キィィィィン!!』

「なっ…」

少年の振りかざした剣は何かに遮られ、女王まで当たることは叶わなかった。
叶わなかった筈なのに。
何故か視界に入った女王は目をまん丸くしてこっちを見ていた。

…いや。
正確に言うと少年の方向を見ているだけで、女王は少年を見ているわけではなかった。
女王が見ていたのは、突然少年の前に現れて己を庇った「あの男」だった。

「お、お前はッ…」
「こんばんは、女王様」

ゆるい感じに発される低い声に、女王はビクリと肩を揺らす。

男は少年の短剣を止めた長い剣を鞘におさめると、呆然と立ち尽くしている少年にふわりと笑いかけた。

「…君が…そのお嬢さんの言っていた兎だね?」
「!!」
「…まぁ、今はそれどころじゃないから突っ込まないけど……とりあえず、ここは私が何とかする。だから君は、早くそのお嬢さんを連れて逃げなさい」
「で、でも…」
「大丈夫、これでも多少の腕はあるからね。それよりも、早くそのお嬢さんを助けないと死んでしまう……かなり危ないみたいだからね」

少年は戸惑った。
ここは素直に信用すべきなのか……いや、もしかしたら本当はこの男は女王の使いかもしれない。
嘘をついて…従った瞬間殺してくる。
そんなことは、いくらでもありえる。

「…あなたを信用していいんですか?」
「勿論。私は君とお嬢さんの味方だ。証明なら…これがある」

男は右腕に被る袖を肘辺りまで捲ると、それを少年に見せつけた。

「こ、れ……」
「わかったかい?」
「……ありがとう、ございます」

少年は軽くお辞儀をして、背後で未だ意識の戻らない少女に繋がれてある鎖を全て魔法を唱えながら外すと、背中に背負いながらそこを出た。
出る瞬間、女王に腕を掴まれそうになったが、急に眩い光が男付近から放たれるとその気配は無くなった。






























































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