いつわり長編

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甘い紅茶に香ばしいクッキー。
お皿とお皿に盛り付ければ……ほら!もうパーティーの準備は完成だ!

ふんふんと鼻歌を歌いながらシークレットハットをかぶった男は次々にあの白いテーブルの上に皿を置いてゆく。その隣では、せかせかと、しかし…寸分の狂いなくティーカップに紅茶を注いでいく召使いの姿が少女の瞳で踊り狂う。
すると、上機嫌で鼻歌を歌っていた男の手が止まり、鼻歌も止んだ為…自然に少女と少年の顔はそちらに向いた。

「……皿にヒビが………ツクモ!新しいお皿を持って来てくれるかい?」
「……不吉…ですね。只今お持ちいたします」

持っていたティーポットを白いテーブルに置くと、少年は早足で目の前の家に入って行った。少女はそれを見送ると、笑顔で自分を見つめてくる男に視線を移した。
青い瞳が自分の瞳とかち合うと、にこりと目を伏せた。長い睫毛が空中を漂う謎の光に照らされて…とても美しく見える。

「今日はねぇ…久しぶりにアリスのお客様がいるから、紅茶もとびきり美味しいのをツクモに頼んであるんだよ」
「…久しぶり?」
「あぁ、久しぶりにこの国へ誘い込まれたアリ「マスター、新しいお皿です」」

スッと手にしていた皿を男に渡すと、少年は少女に見えない様にして…思いきり男の顔を睨みつけた。

「…マスター。余計なお話はこの場に必要としません。二度とその話はしないでください」

少女は不思議そうな顔をしてその光景を見つめているが、少年の言葉に男が「ごめん、ごめん。また口が滑ってしまった」と発したと同時に…再び作業は開始されたので、特に気にしたりはしなかった。











「…ところで、君はどうしてこの世界に来たんだい?」
「え?」
「マスター!」

ホクホクと湯気のたつ紅茶に、ゆらゆらと揺れる蜂蜜。
男いわく、とても美味しいらしいが…少女は美味しいとも不味いとも言えぬ味だ。不思議な…そう、不思議な味。

「まぁまぁ。ね、どうして…こんな変な世界にわざわざあちらから来たんだい?」
「えっと…兎を…兎を追いかけて来たんです」
「兎?」

男は眉間に皺を寄せて、怪訝な表情で少女の顔を見る。それは召使いの少年も同じだった。

「兎…兎なんかこの国にいましたか?」
「いぃや、兎に似たヤツは沢山いるが……あの女のせいでおかしくなったこの世界に本物の兎など等にいない筈だ……仮にいたとしたら、それは城に連れていかれるだろう…」
「ですよね…おい女、その兎は今どこにいる?」
「こら、口の聞き方が悪い。彼女がお客様だということを忘れてはいけないよ」

前にも見た様なやり取りが繰り広げられ、少女は曖昧な笑みでそれを見ていた……するとその時、宙を舞う光が今までに無い明るさをそれに灯し太陽の様に眩しくなる。光に目が痛み、ギュッと瞼を閉じた……しかし、それも暫くすると元の明るさに戻り…そっと瞼を開けると、宙を舞う光達はそのまま天高く飛んで行った。
それはまるで、一つの流れ星がどこか一点を目指して飛んでいくかの様に。

「…なんだったんだろう」

少女は不思議なことに囲まれて、既に夢みごこちな様子。そんな傍で…男と少年は互いに顔を見合わせ…そして互いに少女へと視線を注ぎ、それを斜めに逸らした。




























楽しい筈だったパーティーは、何かの予兆を知らせて…消えた。























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