いつわり長編

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豪勢な城の一角で、物思いにふける女性が一人いた。


「何だったのかしら……」


どこかで見た気がする顔と、泣きたくなる程懐かしい声が、未だに女性の頭の中をグルグルと回っていた。


「どうしたんだい、閨?」
「あ…白蝉様……」


昨日、式を挙げた時の相手となる男が、閨と呼ばれる女性の顔を心配そうな顔で見つめている。


「何か悩んでいるんだろう?」
「あぁ……いえ…大したことでは…」
「でも悩んでいるんだろう?私に話せるなら、いくらでも聞こう」
「白蝉様……優しいのね」


昨日の出来事から、心の中にポッカリと空いた穴を埋めるかのように、閨は白蝉にしがみよった。


「閨……愛している……」
「……私も…白蝉様を愛してる…」


白蝉が閨の顎に左手をそえ、口づけをしようと顔を近づけた。


『ドガァァン!!!』

「!?」


建物が破壊される音が屋敷内に響き渡った。


「白蝉様!!」


屋敷につかえる家来が、怪我をおって部屋に転がりこんできた。


「何事だ!!?」
「あいつらが……昨日いたあいつらが…」
「あいつら!?」
「挙式に来ていた、あいつらの事です!!」
「!!!」




白蝉の頭によぎるのは、あの男しかいない。


「……おのれ……意地でも取り返すつもりか……」
「白蝉様……?」


ブツブツ呟いていた白蝉を不審に思った閨は不安げな表情で白蝉の顔を見上げる。


「……大丈夫だ、閨。お前は『天邪狐空』なんかに渡さない……」
「天邪狐……空…?」


懐かしい……

なんだろう……

愛しくて堪らない……


「ぁあっ……!!」


急に襲った頭の割れるような痛みに、閨はその場にうずくまった。


「!?どうしたんだ閨!?」
「ぁ……頭が……」


まるで何かを思い出させるような……

記憶がかき混ぜられる様な感覚……。


その時、さっき白蝉が厳重に閉めたはずの部屋の扉が勢いよく開かれた。


『バンッ!!』

「ねーちゃん!!!」


昨日と同じ。
綺麗な白髪を風に揺らせて、己の名前をねーちゃんと呼ぶ男。


「貴様……どうやってこの屋敷に……」
「黙れや、木々俚白蝉!!ねーちゃん……閨は返してもらう!!」


白蝉と白髪の男が睨み合うなか、閨は必死に記憶をたどった。



「天邪狐……天邪狐……」


何故だか分からないけど、どうしてもこの名前だけは思い出さなきゃいけない気がする。


「思い出さなきゃ……思い出すのよ私!!」


そして、閨の記憶にうっすらと浮かび上がったもの……


『『ねーちゃん!』』
『『空さん!』』


自分と誰かが幸せそうにしている姿…


「………………うつ……ほ……さ……ん……?」


……彼女は確かに思い出した。

……『天邪狐空』という人物を……。


『ドサ……』


「ねーちゃん!?おい、ねーちゃん!!」




……を代わりとして……






-To be Continued-

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