いつわり長編
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「新婦……入場!!」
『パチパチパチパチ』
美しい薄桃色の着物を身にまとった、これまた美しい薄桜色の髪を持った女性が、年のいった男性に手を引かれて、皆が集まる広場に歩いてきた。
「おめでとう閨お姉ちゃん!!」
「美しいわよ閨!!」
……嬉しい……
やっと……やっと…私の夢が……
「……閨、父さん……悲しいよ」
「やだ……泣かないでお父様…」
新婦と腕を組んで歩く新婦の父親は、眉毛を下げて寂しそうな……でも嬉しそうな顔をした。
「……じゃあ、父さんはここまでだから……」
「うん……行ってきます…」
父と腕を離し、数歩先で背中を向けて己を待つ新郎の元へと新婦は歩いた。
「……閨…」
「白蝉様っ……!!」
新郎は手を伸ばして、新婦の手を掴んだ。
「やっとこの時が来たな……」
「はい!!白蝉様と一緒になれる時が来るなんて……」
新婦は顔を赤色に染め、新郎に抱きついた。
「コラコラ……まだ式は終えていない」
「はい……つい……」
新婦が新郎から離れた瞬間、広場から大きな声が上がった。
「目を覚ますんやぁっ!!ねーちゃんっっ!!」
「「「「!!?」」」」
広場にいた全集がその声の主に目を向けた。
「誰!?」
「目を覚ますんやねーちゃん!!!」
新婦は驚きを隠せずに固まってしまった。
「誰だ、君は……?」
「ざけんな!!その女はワシらの仲間や!!!返してもらう!!」
声の主は、全集を掻き分け、バッと新郎と新婦の目の間に立つと、新郎の胸ぐらを掴み、頬を思いきり殴った。
「っつ………酷い……急に何をするんだ……。しかも今は挙式中だぞ、仮にも…」
「そんなん知らんわ!!!」
声の主は再度新郎を殴ろうと腕を振りかぶった。
しかし、それも新婦によって止められてしまう。
「やめてっ!!!」
新婦はグイッと新郎の腕を掴み、声の主を思いきり睨み付けた。
「誰だか知らないけど……白蝉様に手を出さないで!!!」
「白蝉……様……?」
声の主は目を見開き、呆然と立ちすくした。
「……ククッ……まぁ、そういうことだ。いい加減諦めないか?……天邪狐空…」
「黙れ!!!」
クスクスと笑う新郎に、声の主である空はまたもや殴りかかろうとした。
「やめろ空!!」
「おやおや……仲間……ですか…」
「チッ……」
広場にあるいくつかの家の屋根の上に、数人の人の姿があった。
その中の一人である、黒髪と青い着物が特徴の男が空に向かって叫んだ。
「こんなところで騒ぎを起こしたら役人が来る!!ここは一時退散だ!!!」
「分かっとるわ!!!!」
空はチラッと新婦を見ると、直ぐに目を逸らし、ガリッと爪を噛んだ。
「おや……逃げるんですか…?」
新郎の言葉にピクリと空が反応したが、グッと堪えて踵を返した。
「……また……また来るわ、ねーちゃん……」
それだけ言い残すと、空は屋根にいた数人達と、広場から姿を消した。
「………フフッ………これから……面白くなりそうだ……」
静まり帰った広場に、新郎の不気味な笑いが響き渡った。
ーTo be continuedー