いつわり長編
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「誰かー!!誰かいませんのー!?」
ヒュオォォォ……
眼下を見下ろせば、真っ暗な谷底が視界を埋め尽くす。
「ひっ……だ……誰かぁ……誰でも良いから…助けて……」
ついてない……。
夕飯の材料にと、山にキノコを採りに来ていたのに……。
運悪く、草に足がもつれ、ふらりと足を踏み外した先にあったのは、落ちれば即死の深い深い谷の入口だった。
「……も…もう…腕が……」
長時間に及ぶぶら下がりに、腕の力は限界を越えていた。
もう……駄目……
そう思って、崖から手を離そうとしたその時……予想もしていなかった声が頭上から聞こえてきた。
「……ブザマやのぅ……」
声が……あの人の声が聞こえたのだ。
「……うつ……ほ…さ……ん?」
もはやギリギリの状態で、重たい頭をゆっくり持ち上げると、その先には月明かりに照らされた、よく知る白銀の髪が風に乗って揺れているのが見えた。
「……とりあえず、これにはよ掴まれや」
そう言うと、空は何処かから盗んできたらしい長い長い縄を、閨の捕まる崖に垂らしていった。
「じゃあねーちゃん、これに掴まったらわしに声かけてや。上に持ち上げたるから」
「……わかりましたわ」
閨は慎重にその縄を掴み、上で待つ空に声をかける。
「掴まりましたわ」
「よし。いくで。」
『グイッ』
空は軽々と縄を引っ張り、死ぬ寸前だった閨を救出した。