いつわり長編

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少女が近づけば近づく程、何故かその古びた屋根からは楽しげな歌が聞こえてきた。また、それを纏う不思議なオーラも独特なものに変わってきている。

「なんだろう……あ!」

少女は突然声を上げる。それは数歩先に見えた沢山の美しい花達がその古びた屋根の家へと繋がる道に沿って生えていたからだ。
ましてやこの世界に来てからというもの家と思えるものを一つも見ていない…少女にとっても期待と好奇心のかられるものとなっていた。

「お花ーっ!」

小走りでそれに近づけば、遠目で見たもの以上に美しいとわかり、少女は半ば興奮抑えられず、その場に座り込んで花を眺め始めた。すると少女は何を思ったのか、一つの白い花を摘もうとした。

その時、少女の背後に黒い影が忍びよった…

「お嬢さん」

当然少女はそれに気づいていなかった為、突然の声にビクリと反応する。

「私の庭の花…勝手に摘まれては困るな」

低い…しかし滑らかで、どこか安心してしまうような声。恐る恐る少女が振り返ると、そこにはニコニコと優し気な笑みを浮かべた…これまた不思議な格好をした男性が立っていた。

「ぁ、あの…こ、これはその……」

怒られてしまう…そんな恐怖から少女はビクビクと身体を震わせ、口から吐かれる言葉は既に文にならず。そんな様子を見た男性は、ふっと笑みを消したかと思うと…急に吹き出して大声を上げながら笑いだした。

「はっはっはっは!!」
「へ…?」
「…全く……あちらから来た可愛らしい人間のお嬢さん…なぁに、別に怒ったりなどしないよ私は。…だからそんなに身体を震わせてまで怖がらなくても……ぶふっ…!」

そのまま男は暫く笑い続け、ようやくそれがおさまった時には少女の頬がムスリと膨れているところだった。それを申し訳ないと言ったように、男は少女へすっと左手を伸ばす。
しかし、当然といったところか少女はそれを見ても怪訝な表情しか見せず、むしろ男が行動する度に警戒心を強くする。困った男は眉毛を斜めに下げ、今度は優しく…本当の笑みをその白い肌に浮かべた。

「いやぁ、すまないすまない。急に現れた…しかもこんな変な格好をした男が君を見て笑ったりなんかして…だから、お詫びと言ったら重いかもしれないけど……私の家で紅茶でも飲んでいかないかい?」
「…紅茶、苦いから嫌いだもん」
「あぁ、大丈夫だよ。紅茶はお嬢さん好みの味付けにしてくれるはずだから。お砂糖もあるし、どうだい?紅茶が嫌ならクッキーでも良いし…」

クッキーという単語に現れた少女の顔の変化を読み、男は座り込んだままだった少女の手をひっぱるとゆっくりと少女の歩く速さに合わせて…目の前に見える古びた屋根が特徴の小さな家へと入って行った。




























ーーー








あの古びた屋根からは想像がつかない程、そこは美しく、それでいて綺麗だった……と言ったギャップが凄過ぎて先程から隣で黙り込む少女に男はクスッと笑った。
高い音や低い音が混ざる音楽が、どこから聞こえてくるかは見当がつかないものの確かに耳には届いている。そして、何故だかここは外にいて感じたように少し不思議な力を感じる。この世界自体が『あちら』と既に違い過ぎている為、元から変な違和感と言ったものを感じてはいたが…この家はそれがずば抜けて強い。外を飛んでいたカラフルな蝶は一匹もおらず、その代わりキラキラとした何かが空中を漂っている。
ここを一言で言ってしまえば…変なのだ。

「ねぇおじさん」
「おじさっ…!?」
「あ、じゃあ変な格好のお兄さん。私ね、ここ…変な感じがするの…なんか、すごく悪い……そんな感じがする」
「…へぇ……分かるのかい?女王の邪悪な力が」

開きかけていた家の扉をパタンと閉め、男はあの花達が咲いていた庭から繋がる…これまた馬鹿でかい庭に佇む真っ白な椅子にゆっくりと腰掛けた。椅子と対になるように反対側には同じ白い椅子が置かれていて、その間には丸く…椅子と似たデザインの白いテーブルが置かれている。男が「どうぞ、腰をかけなさい」と発すると少女は素直に男とは反対側にある椅子に腰掛けた。
すると、ジャストタイミングにも程があると…先程閉じられたはずの家の扉が開き、その奥から美味しそうな匂いと共に少年が現れた。

「……マスター。人使いが荒いにも程がある」

お盆に何かを乗せ、それを目の前の白いテーブルに置くと少年は少女を見、眉間に深い皺を寄せるとマスターと呼ばれた男を睨みつけた。

「また何か拾って来たのかよ…」
「まぁまぁ。たまたまそこの花壇にいたから連れて来ただけさ。私だって色々考えて行動しているからね」

少年の持ってきた二つある内の…見た目で判断する場合、色が濃いめの方の紅茶を男は手にすると、それをすっと口にあてて喉に流し込む。「はぁ…ツクモがいれる紅茶は世界一だね」などと呟き、残された方のティーカップを少女に差し出した。

「飲んでごらん、彼がいれた紅茶だ。きっと君好みにしてくれているはずだから」

ニコリと微笑まれ、それに流されるように少女はおずおずと差し出されたティーカップに口をつけた。その瞬間、口の中を広がるほのかな苦味とそれにしっかりと勝る紅茶独特の甘い味に少女は幸せそうに目を細めた。

「美味しい…」
「だろう?ツクモのいれた紅茶はちゃんと飲む者に合わせてつくられるからね。私の好物の一つだよ」

ズズッと…下品と言われてしまう様な音をたてながら、半分位まで飲んだ紅茶の入るティーカップを口から離すと同時に、少女は視線を感じていた方へと向き、柔らかい笑みを浮かべた。

「…ツクモ?くん、紅茶…とっても美味しいです」
「…お褒めにおあずかり光栄です」

胸に片手を当て深々とお辞儀をすると、少年は男に近づき…私には聞こえない声で何かを言った。少女は不思議そうな顔でその様子を見守っていたが、耳打ちを受けていた男の顔が一瞬だけしかめられたのを見逃さながった。

「……では。僕はこれで」

用が済んだのか、少年はちらっと最後に私を見ると、スタスタと出て来た扉の中へ戻って行ってしまった。扉はそれに従い、静かに閉まる。

「さて素敵なお客様もいることだし…早速パーティの準備だ」
「え、パーティ……?」

被っていた大きな…それはそれは邪魔にしか思えない大きなシークレットハットをクイッと親指で上げると、男はニコリと……今度は底の見えない恐怖を感じさせる様な笑みを浮かべる。

「……イカレ帽子屋、マスター…様々な呼び方があるけど……まぁ自己紹介はしておこうか。私の名前はヤクマ。この世界に生きる頭のイかれた住人……とでも言おうか、ま、そんなことはどうでも良いんだ。私はパーティが大好きでね…暇さえあればパーティをしているくらいだ。…あ、もちろん一人の時でもやるよ……って言っても最近はツクモやヒカエ君もいるから一人でやることはまず無いんだけど」

ハハハと笑う男の手には、いつの間に用意されたのか沢山のティーカップや皿があり、それを見事な手さばきで並べて行くのが今さっきまでいた少年だった。

「ぼーっとしてる暇があるなら手伝ってくれないかな」
「あ、は…はい!」
「こら!この娘は私の大切なお客様であり、又あちらの世界の人間だ。いくらツクモでもその態度は私が許さないよ」
「…申し訳ありませんでした」
「分かれば良いよ」

カチャカチャ…食器の当たる音が響く中、突如光を強くする空中を漂う何か。それを見た男は目を丸くし、聞こえない声で何かを呟いた。

しかし、暫くするとそれらは元の明るさに戻りまた宙を自由に漂い始めた。










































































イかれ帽子屋に薬馬、それの召使いに九十九……は!!九十九を小説に使うの始めてだ!!……とかふと思った。
進み遅くてすいません…
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