いつわり長編

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「んっ……」

ふっ…と目が覚めた時には、そこは既に少女が全く知らない所、見たこともないところだった。
ふわりと漂う甘い香りに、ひらひらと飛び回るカラフルな蝶たち…どこかから聞こえてくる楽しそうな歌声に、先が見えない真っ黒な空。

「ここは…」

むくりと横たわる身体を起こし辺りを見回すが、自分を中心に広い範囲で囲む幾つもの不思議な生き物のおかげでここがどこなのか少女はわからない。
でも、多分ここは元々自分がいた世界では無いということは何と無く直感でわかった。

「あ、あの…ここはどこ…?」

周りを囲む生き物達は少女が喋ると、急にザワザワと騒ぎ始める。

「しゃべったよ!?」
「また変なのが来たのかい…」
「きっと女王様がお怒りだわ…」

各自自由好き勝手に自分を奇怪な瞳で見る生き物の中、「ちょっとどいてねぇ〜」と声をかけながら奇妙な猫…の格好をした人間が群集の中心から現れた。

「お、これはまた可愛いかも……あ、やっぱりブスかな…」

肘に手を当て、自分を舐めるように体の隅々まで観察する猫…の姿をした少年にたまらず少女は声を上げた。

「〜っ、あの!!」
「ん?」
「あなた誰!?」

少女は眉間に皺を寄せて、ずいっと詰め寄るが少年はそれをさらりと受け流す。

「誰?……ハハッ………それ、こっちのセリフだから」

藤色の瞳をギラリと少女に向け、一瞬だけそれが緩んだと思えば、少年は怯んだままの少女にくるりと背を向け、未だに数の減らない不思議な生き物達にこう言った。

「こいつは俺の獲物だよ!」

それを聞いた生き物達は一斉に不満気な顔をするが、少年がパチンと指を鳴らすと…何事も無かったかの様にそれぞれ自分達の住処へと帰って行った。

「ふふっ…これで邪魔な奴等は消えたね。…さ、早く兎を追いかけな!」
「え、…え?……あ、あの…動物さん達は…」
「え…、あぁ、ちょっと記憶をいじっただけだよ。君が『ここ』にいることは隠さなきゃいけないからね〜」

意味深な発言に少女は怪訝な顔をするが、少年から出る血の気が引く様な雰囲気に、出そうになる疑問を必死に飲み込んだ。

「な、なんか分からないけど…一応ありがとう。ね、猫…さん?」

藤色の猫目にエメラルド色の短髪…身体に纏う緑と黄緑を混ぜた様な色をした足先まで繋がるぶかぶかなパーカー。そのフードに何故か付属されているリアルな猫耳とお尻部分についた尻尾。
それが少女から見た少年の外見だった。

「クスクス…猫、ね…。まぁ、少なくとも俺は猫ではないかな…生まれた時には既に『こちら』にいた…君と同じ……人間だし」

人間…少年が呟くと、少年の影がより一層濃くなった気がして、少女は何とも言えない気持ちでぽつりとそれに言葉を返す。

「そう…なんだ…」
「うん。あと、俺はここの門番…それとここに住む馬鹿共の監視役。名前は…ヒカエ……君は?」
「私は…ネヤ。あの、『こちら』とか『あちら』とか…私意味が分からなくて…」

あの兎と言い、このヒカエと言う少年と言い、あちらと言ったりこちらと言ったり…二つの世界の関係を知らない少女にとっては一つとして意味が分からなかった。

「んー、まぁ簡単に言えば…俺にとっての『あちら』は君の住んでいる世界で、普通の人間とかが住む世界…君がここにくる前にいた世界のこと。んで、君たちの世界にとっての『あちら』であり、俺にとっての『こちら』はこの世界。夢や妄想の詰まった偽りの世界、又の名は不思議の国…あっちで言えば…えっと……あ、そうそう、わんだーらんど…とか言ったっけ?」
「ワンダー…ランド?」
「うんうん。ま、わんだーらんどって言っても何気ちゃんとした世界だけどね」

たんたんと答えていた少年は、ふと何かを思い出した様にポンと手を叩いた。少年の話にずっと頷いたり、首を傾げたりしていた少女はそれに驚きピンと背筋を伸ばす。

「忘れてた…ネヤ、だっけ……ウツ…じゃなかった…兎追っかけてあっちの世界から落ちて来ただろ?」
「へ?」
「へ?…じゃねーよ。白い兎だよ、首からえらくデカイ時計ぶら下げてる兎!」

少女は暫し考え込むが、あっ!と声を上げて瞬きの間に困った様な泣きそうな…よく分からない表情を浮かべる。それを見た少年はやれやれと両手を空中でバラバラに動かし、先程あの生き物達にむけてやったようにパチンと指を…今度は何か呪文の様なことを口にしながら鳴らした。
すると、急に少女の身体が淡い光に包まれ、次に瞼を開けた時には柔らかそうな青のドレスに白い前掛けの様なものがついた洋服が少女に着せられていた。そして、桜色の髪には白いリボンつきのカチューシャ。靴は深い赤色の可愛らしいものに変わっていた。

「これ…」
「不思議な国に迷い込んだ…お馬鹿な少女ちゃんに俺からプレゼント」
「ヒカエさん……」
「…さ、早く行きな!こんな入口付近で止まってたらウツホ……じゃなかった。兎は見つからないからな」
「…ありがとう!」

少女がそう言った時…少年の姿はもうそこにはなかった。







































































控さん…どんなキャラだよ…汗
ヒカエは外見13歳。実齢389歳。
原作より若い笑
ネヤの服に突っ込みはご自由です(わかんないだもん笑)
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