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□01.夢じゃない?
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ゆっくりと目を開くと,いつもの天井が私を出迎えた。
見ていた夢が夢だけに,今日はその光景にやけに安心感を覚えた。別に悪夢って訳じゃないけど,何だか疲れてしまったのだ。

あの日は色々あったから。でも,だからこそ今の生活があると思えば…。

私は今,一人暮らしだ。
少し前まではお姉さんと暮らしていた。お姉さんとはさっきの夢の覚め際に会った女の人で,私を育ててくれた人。長い黒髪を持った,憧れの人。
しかし,何週間か前にお姉さんは突然いなくなってしまった。「暫く留守にする」と置き手紙を残して。

いつかは帰って来ると信じているから,私はここで待ち続けている。待ち続けているから,私はいつも通りに過ごしている。


「♪〜♪♪〜」


鼻歌をお供に朝ご飯を作り,食べる。今日は休日なので,動作は全体的に緩慢だ。


「…あ」


不注意で,水を少し溢す程度には。

元々活動的な性格ではないつもりだが,晴れた休日となると,何かしたくなる。でも何をしよう?


「…歌うか」


色々考えてはみたけど,結論はいつも通り。なんて単純な人間なんだ私は。

気分が良い時は,外へ出て思い切り歌う。それだけで,余計な事は何もかも忘れられるのだ。

おやつに飲み物,一応お財布とかも持って行こう。
…勿論,あのペンダントも忘れずに。


「♪…♪〜」


今日は何だか調子が良い。声がよく通っている気がする。

歌っている途中,ふとお姉さんの笑顔を思い出した。会いたいなぁ…

なんて,思っていた時だった。


「地震…?」


突如として揺らぐ足元。勿論大震災などと称される程のものではないが,だからと言って弱くもない。長く続く鳴動に,一人でいるせいか余計に不安な気持ちが増して来る。
地震に遭った時どうするか,というのは学校やら何やらで散々教えられた筈だけど,今の私の頭からはそんな事飛んでしまっていた。この光景を受け入れたくない一心で,強く目を瞑った。


(早く止まって!…あ)


しかしそれにより平衡感覚を失ってしまったのか,体が傾き倒れて行ってしまう。受け身の類をちゃんと教わった事のない私は,為す術もなく地に身体を叩き付けるのだった。





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