企画

□Happy Valentine!
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※ ED『再会の約束』その後。









ふわりと、開け放たれた窓から心地いい風が流れる。
部屋に飾ってある赤、青、黄の三本の薔薇が優しく揺れた。




『ギャリー…』




あの美術館での出来事を忘れないようにと、部屋に飾った薔薇。
自分と、あの悪夢のような世界で出会ったかけがえのない大切な人。そして、取り残された悲しい少女の命の花。

今日は、美術館での別れ際に大切な人――ギャリーと約束したマカロンを二人で食べに行く日だった。

いつもの服を着て、小さいポーチを持って家を出る。


しばらく道を進むと、家から一番近い花屋の店先に独特の髪の色で、青いロングコートを着た細身の男性がいた。
彼は色とりどりに並ぶ沢山の花を覗き込んでいる。




『ギャリー』




名前を呼んで近づくと花に夢中だった彼も気づき、振り返った。




『ごめんね、待った?』


「全然。大丈夫よ!――あ、すみません。これ一本戴ける?」




ギャリーが差したのは、雪のように白く儚い花。その花の名札には、“薄雪草”と書いてあった。

店員のお姉さんが素早く花を包み、優しい笑顔を浮かべて彼に手渡す。
ギャリーは上機嫌で花を受け取り、お金を払った。




「さぁ、行きましょう?イヴ」




あの美術館で自分を支えてくれた笑顔が、今も変わらず目の前にある。
安心感と幸福感に満たされ、ギャリーと手を繋ぎ、目的の店に向かった。
















店に入り、窓側の席に向かい合って座る。
ギャリーが紅茶とおすすめのマカロンを注文してくれて、二人でいろいろな話をした。




「ここの店ね、今バレンタイン期間で色んな種類のチョコマカロンを出してるの。すっごく美味しいのよ」


『ほんと?私、チョコ大好き!』


「それはよかったわ!」




笑顔で話してくれるギャリーに、こっちまで嬉しくなる。

あの美術館での出来事はとても怖くて悲しいものだったけれど、あの時のことがあったからギャリーに出会えたのだ。
それに、ゲルテナの作品だったにせよ、あの世界で出会った黄色い薔薇の少女――メアリーは確かに生きていたのだ。

独りの寂しさに耐えきれず、あの世界から出たいと望んでいた彼女のことを、忘れてはならない。


いつの間にか黙ってしまった自分に、ギャリーは優しい、でも真剣な瞳で見つめてポケットからある物を出した。




「イヴ、これ…ありがとう」




差し出されたそれは、美術館での別れ際貸したままにしていた自分のハンカチ。

母が“Ib”と刺繍してくれたハンカチは、以前付いていたギャリーの血も綺麗に落ちていて、元の白さを取り戻していた。


受け取って、そのハンカチを胸元で握り締めていると、ギャリーが先程買っていた“薄雪草”を差し出す。
戸惑って彼の表情を伺うと、目を細めて優しく笑った。




「受け取って、イヴ。バレンタインチョコの替わりに」


『でも、私何も持ってきてないよ?』


「いいのよ、お返しなんて。私がイヴに渡したかっただけなんだから」


『……ありがとう』




小さく、柔らかいその花をそっと受け取る。
とても綺麗な純白とギャリーの気持ちに、胸が暖かくなった。




『…綺麗な花だね』


「でしょ?…その薄雪草の花言葉はね、“大切な思い出”よ」


『大切な…思い出?』


「そう。…あの美術館での出来事は、正直色々と辛いものがあるけれど…あのことがあったから、私は大切なイヴに出会えた。あの世界だったから、私達はこんなにも信頼し合えたと思うの」


『うん…』




ギャリーの言いたいことが、わかる気がする。
だって、私も同じことを思っていたから。




「私は、あの美術館でのことを忘れない。イヴと出会えたこと、それにもちろん…メアリーのことも」


『うん』


「だから、私にとってあの時のことは―…」


『「大切な思い出」』




重なった声に、ギャリーは驚いたように目を見開いて――嬉しそうに笑った。


丁度いいタイミングで、店員さんがいくつかのマカロンが盛られたお皿を運んできてくれて、二人で美味しい美味しいと笑いながら食べる。

チョコ味のマカロンはギャリーの言う通りとても美味しくて…幸せな気分になった。















『ギャリー、ごちそうさまでした』


「どういたしまして」




マカロンを食べ終わり、お会計で自分の分のお金を払おうとした私に、ギャリーが奢ると言った。
当然断ったけれど、結局押し切られてそのまま払われ、私は謝りながらごちそうさまを言う。

店を出た私達は、待ち合わせていた花屋のところまで戻ってきた。
楽しい時間はあっという間に終わってしまう。




「イヴ、今日はありがとう。すっごく楽しかったわ」


『私も。ありがとう、ギャリー。…あの…』


「ん?」


『ギャリー…また、会える?』




不安になりながらそう聞くと、ギャリーは優しく微笑んで私を抱き締めた。




「もちろんよ、イヴ。辛いことがあったら、すぐに私を呼びなさい。イヴの為なら、どこにいたって飛んでくるから」


『ありがとう。…じゃあ、ギャリーが辛いときは私が飛んでいくね』


「!…ふふ、ありがとう」


『それから…』


「なぁに?」


『……今度は、私がギャリーにバレンタインチョコをあげるから。待っててね?』




ギャリーは驚いた表情で私の顔を見ると、嬉しそうに笑う。
あの時も、今日も…私が傍にいるときは、沢山の笑顔を見せてくれるこの人が大好き。




「またね、イヴ」


『またね、ギャリー』




今度は、約束なんていらない。
これからは、好きなときに会えるから。
次に会えた時は、ギャリーに伝えるね。…大好きだよ。













Happy Valentine!

(ギャリーと出会えて)
(イヴと出会えて)
((本当によかった…))
 

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