光の対価
□配達6【速達郵便配達員】
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コンコンッ…
「どうぞ〜」
『失礼します』
館長室の扉をノックし、ロイド館長のいつもの間延びした返事を聞いて入室すると、テガミバチらしいが、初めてみる男性がいた。
「館長、彼女が…?」
「そうそう!ソニア・ルピナス君だよ」
何だかわからないけれど、館長が私の紹介をしていたらしく、とりあえず挨拶をする。
『はじめまして、ソニアです。よろしくお願いします』
「速達専門、ジギー・ペッパーだ。よろしく」
速達…なるほど、どうりで見たことない顔だ。
自分の中で納得しながらも、彼―ジギーさんと握手を交わす。
「館長から君のことは聞いている。アカツキから来た優秀な子だと」
『優秀だなんて、そんな…。私も、ジギーさんの噂は聞いています。
こちらのハチノスで唯一の速達専用BEEで、“鉄の馬”を乗りこなす優秀な人材だと』
「光栄だな」
噂の内容を素直に言うと、ジギーさんは人の良い笑みで笑った。
固い意思と決意を持ったまっすぐな瞳、私から見て左側にある大きな十字傷。長い睫毛に柔らかそうな茶色の髪。彼もまた、ゴーシュとは違う素直に“カッコイイ”容姿の人だと思う。
それに…何よりその瞳が、ジギー・ペッパーというその人が悪い人ではないとありありと見てとれる。
他意はなくお互い無言で見つめ合っていると、隣でロイド館長がわざとらしく咳をした。
「コホンッ…二人共、本題に入ってもいいかい?」
『「はい」』
「今回君達を呼んだのは、速達として二人で行ってほしい場所があるからなんだ」
『それは構いませんが…私は速達専門じゃありませんよ?』
「普段はそうだけど…君のアスターなら速達として充分働けると思ったんだ。…嫌かい?」
館長という立場上、仕方なく私の事情はロイド館長には話していた為、当然アスターのことは知っている。
けれど、彼も“利用”するようなことは嫌う為、ちゃんと私の意思を聞いてくれるから…何だかんだ言って館長のことは嫌いじゃない。
『いえ、大丈夫です』
「三ヵ所連続で行ってもらうことになるけど…」
『アカツキで慣れてますから』
「わかった。お願いするよ。それで、場所なんだけど…」
ロイド館長に言われた場所はユウサリとヨダカの両方。
一ヵ所目はユウサリにある『ラズベリー・ヒルの町』
二ヵ所目はヨダカにある『アイトーン炭鉱町』
三ヵ所目も同じくヨダカで『レングスの町』
ラズベリー・ヒルの町は結構近いからすぐに終わりそうだが、問題はヨダカ地方。
鎧虫に時間を取られては速達にならない。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
『わかりました』
「行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い」
郵便物を受け取り、気の抜けそうな館長の声を背にして私とジギーさんは館長室を後にした。