光の対価
□配達 5【変わりゆく風景】
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大泣きして恥ずかしながら、疲れて眠ってしまった翌日。
私はゴーシュさんにブッコロリの森で助けた少年のことを聞いた。
「あの少年は…どうやら父親と喧嘩をして、自分の強さを見せる為に一人で手紙を届けようとしたらしく…町についた時に、一番に彼の父親にお礼と謝罪を受けました」
そう言って苦笑いをするゴーシュさんに、父親らしき男性に謝られる彼の場面がありありと浮かぶ。
私は、申し訳なさでいっぱいになった。
『ごめんなさい…ゴーシュさん。配達だけでなく、いろいろご迷惑をおかけしました』
頭を下げて謝ると、彼は焦ったように言った。
「顔を上げてください!貴女のせいではありませんから。それより…」
続けられた言葉に、私は顔を上げて?を浮かべた。
ゴーシュさんは少し困ったような顔をして言う。
「その…“ゴーシュさん”って、止めませんか?」
『え…お嫌ですか?』
「いえ、そういう訳ではなく…」
『?』
尚も困ったような…否、少し恥ずかしがっているような表情で、彼はそっぽを向いて小声で言った。
「僕は…貴女のことを既に友人だと思っているので…僕自身“さん”付けに慣れていませんし、何より他人行儀な呼び方はどうかと」
『友、人…?』
“友人=友達”
…友、達…?友達!?
「嫌…ですか?」
ポカン…と、間抜けな顔をしている私に不安になったのか、ゴーシュさんは悲しい顔で問いかけてくる。
けれど、私の脳内はそれどころじゃなかった。
『ゆ、ゆゆゆ友人って、友達ってことですよね!?』
「え?は、はい」
『どどどどどうしよう!!友達なんて初めてで私っ!!!』
「ソニア、とりあえず落ち着いてください」
彼の言葉に、私は一旦深呼吸をする。
すぅぅぅ…はぁぁぁ…すぅぅ…はぁぁ……………。
「…落ち着きました?」
『…はい』
取り乱したところを見せてしまった私はすっかり気落ちしていた。
せっかく友達だと言ってくれたのに、私…。
「…ふふっ」
『!ゴーシュさん…?』
「っ…す、すみません。貴女がそんなにも取り乱すなんて思わなかったので」
言いながらも、今だに笑っているゴーシュさんに恥ずかしいやら嬉しいやら…。けれど、暖かい空間に友達との会話ってこんな感じなのかな、と期待した。
『あ、あの…ゴーシュさん!』
「はい?」
『私、ゴーシュさんと仲良くなりたいです!』
「それは…既に友達、ということで?」
『もちろんです!』
「それは良かった」
『それで、友達って…具体的にどうすれば良いのですか?』
「そうですね…。支え合ったり、一緒に泣いたり笑ったり、苦楽を共にする仲ですね」
『苦楽を共にする仲…』
「まぁそれには貴女の言う通り仲良くなることが一番大切なので…まずはその“さん”付けと、敬語をなくしませんか?」
『わかりまっ、』
「“わかった”または“うん”でいいですよ」
私の口を人差し指で押さえて、至近距離でそう言った彼に、私は何故か心臓がいつもより速く脈打っているのを感じた。
そこでふと気づく。
『ご、ゴーシュさ、……ゴーシュだって、敬語じゃない!』
「僕はもう癖みたいなものですから、気にしないでください」
ニッコリと、上機嫌に笑ったゴーシュに私は何も言い返せなくて黙った。
それにしても…今まで敬語で話していた相手にタメ口で話すのは少し違和感がある。
呼び方もしばらくは意識しないとダメそうだけど…これが友達としての第一歩なら、これ以上嬉しいことはないとその時の私は思った。