光の対価
□配達 2【少女との配達】
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あの日から、早一ヶ月が経った。
あの少女の実力はすごいらしく、この一ヶ月でかなりのノルマの手紙を一人で配達した。
けれど、館内で時々見かける彼女はいつも人の目に晒されて…アカツキから来たせいか、このハチノスに溶け込めていないように思う。
そんなとき、僕は館長に呼び出しを受け、あの日以来となった館長室に向かっていた―…。
―ガチャッ…
「やぁ、待ってたよ。ゴーシュ君」
扉を開けた先にいたのはこのBEE-HIVEの館長、ラルゴ・ロイド。
そして書類だらけの彼の机の前に立つ人物に、僕は驚いた。
「君は…」
その人物は、あの日僕とアリア・リンクが案内をした少女だった。
一ヶ月前となんら変化はなく、碧色の瞳でこちらを見る彼女に、僕は記憶を辿って彼女の名を思い出す。
―ソニア・ルピナス。
それが、彼女の名前だった筈。
思い出しはしたが彼女に何と声をかけてよいか分からず、僕は曖昧に微笑んだ。
すると、彼女は驚いたように少しだけ目を見開いて、初めて会ったときのような微笑みを返し、口を開いた。
『お久しぶりです、ゴーシュ・スエードさん。…あの時は、ありがとうございました』
彼女が話しかけてくれたことによって僕も大分話しやすくなり、返事をする。
「ゴーシュでいいですよ。お久しぶりです、ソニア・ルピナスさん」
『!…覚えて、いたのですか?』
「正直、つい先程思い出しました。貴女こそ、あの日の別れ際、よく僕とアリア・リンクの名前をフルネームで言えましたね?」
そう言うと、彼女は曖昧に笑って『人の名前を覚えるのは、得意なんです』と言う。
『ソニアでいいですよ。ゴーシュさん』
「、ですが…」
『アカツキから来たと言っても、私は上流階級の人間ではありません。年下にフルネームでさん付けなんて、堅苦しいでしょう?』
「…わかりました。ソニア」
僕がそう呼ぶと、彼女は初めて警戒心を緩めた年相応の可愛らしい笑顔で応えてくれた。
けれど、まだ完全に警戒心を解いた訳ではない。
彼女は世界の厳しさを、よく理解している人だと思った。
「話はついたかい?」
『あ…すみません、ロイド館長』
「気にしなくていいよ。君はまだこのBEE-HIVEに溶け込めていないみたいだし、少しでも話せる人がいてよかったよ」
僕と同じことを、館長も感じていたらしい。
嬉しそうに、安心したように彼女を見る彼に、楽天的に見えて結構人を見ているところは変わってないなと思う。
そこで僕は館長に呼び出しを受けたことを思い出し、(実際には覚えていたが用件を聞くタイミングがなかった)話を切り出した。
「ロイド館長、用件は何ですか?」
「お!よくぞ聞いてくれた。実はねぇ〜今回の配達は、君達二人で行ってきて欲しいんだ!」
「ふ、二人?」
『?』
「そう。今回運んでもらうのはとっても大切なものらしくてね?レントの町に届けてほしいんだ」
『レント…ブッコロリの森ですか』
「!」
「正解♪あそこは鎧虫のテリトリーだし、もし襲われたら大変だからね。二人とも、頼まれてくれるかい?」
「…わかりました」
『疑問系でも、私達に拒否権はないでしょう』
少しだけ、呆れたような表情を見せた彼女は、僕に向かって微笑んだ。