薄桜鬼

□蒼眼少年 空眼少女
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「すみませ〜ん。お団子下さ〜い」

団子屋の店先で、女の子が店の中へ向けて声を掛ける。

髪を高い位置で結い上げた、袴の男装姿。
腰には刀をさし、傍から見れば声変わり前の少年にも見える。

「またいらしたの?新選組のお使いさん♪」

店の中から感じの良さそうな女の子が出て来る。
男装の子と同い年か――
この店の三色団子と同じ、桃色の着物に若草色の帯を締め、頭に白い布を巻いている。
横結びにした癖のある柔らかな茶髪が動きに合わせてうねる。

「えぇ、はい。ここの、前に出した時の評判が良かったので……」

「そうでして? お店の方が聞いたら、とても喜ばれたでしょうに……私の方から伝えておきますね。えっと、確か千鶴さん………でしたよね?新選組の方がそう呼んでいらした気がしたのですが」

千鶴はこの前に来た時、沖田が一緒だった事を思い出した。

「はい。雪村千鶴です。それで、お店の方と言うのは……?」

「何時も奥でお団子を作っているお婆さんの事ですよ。私は雇いなんです。でも、折角美味しいと言ってくださったのに、お婆さんが体調を崩してしまっていて……今日のは私が作った物でして、前と違うと言われてしまうのでは……」

店の子は不安そうに訊く。

「大丈夫ですよ。凄いですね、このお団子全て作ったんですか!? 同い年くらいなのに……」

「ありがとうございます」

店の子はとても嬉しそうに、でもその事を隠すように静かに笑っていた。

その顔を見て、千鶴は少し安心した。

店の子は同じ人間とは思えぬくらいに肌の色が白く、感じ良く笑ってはいても病気気味な薄幸そうな顔をしている。
生きている内で不幸な目に何度もあっている。
そんな顔をしていた。

なので何か差し障りのある事を言ってしまうのではないかと、千鶴は不安で仕方がなかった。
でも笑っているのを見たら、肌の色も不健康なのでは無く、生まれつきなのだと思った。

「前に頼んだ数…で分かりますか?」

「はい」

店の子は再度にっこりと笑うと、お団子を包み始める。
その姿を見て千鶴は、本当にしっかりしている子なのだと思った。

「どうぞ」

千鶴は包みと引き換えに代金を渡すと、帰り際に一つ質問をした。

「貴方の名前、何て言うのですか?」

店の子は少し躊躇ったが、そっと耳打ちをした。

「稚恵……毬音稚恵と申します」

被った布巾から漏れる癖のある猫っ毛が風に揺れる。
前髪の間から覗く空色の瞳に、千鶴は美しくも何処か違和感を覚えた。
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