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□Whatever you say ─仰せのままに─
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「何か甘いものが食べたい」

そう主人の声が聞こえたのは時計の針が3を指す頃。

「おやつの時間でございますね」

にこりと微笑んで、テーブルの上に淹れたての紅茶と苺の乗ったショートケーキを並べた。



すると、満足そうに主人は頷いて、フォークへ手をかけた。

いつもはまるで世の中の全てに不満をもっているような不服そうな表情の主人もおやつの時間ばかりは、これとないような幸せそうな表情へと変わる。

僕はこの表情が世界で一番大好きだ。



「やっぱり、クンは使える執事だな」

やることなすこと全てが早く、完璧だ。
と満足そうに僕に笑顔を向けてくれる。

「ありがとうございます」

にこりと微笑んで、軽く笑い、会釈をすると主人は、幸せそうにショートケーキの苺をぱくりと食べた。



これまで主人は幾つもの執事をつかえさせていたのだという。

だけど、主人は少しでも気に入らないことがあるとその者をすぐにくびにしたという。

僕はもうすぐ、この主人につかえて、1年が過ぎようとしている。

今までの執事はいずれも1ヶ月も持たなかったらしく、これほど長くつかえているのは僕が初めてだという。



まだ、若い主人は一国を治めるくらいの方で、国民にもそれほど不満を抱かせることもなく上手くやっているのだという。

こんなにも若いのにすごく立派だと思う。



わがままなのもきっと、甘えるところといえば執事に対してしかないのだからだと僕は思う。

いくら一国を治めているお方だとは言えどもまだ、年は若く、中身は普通の同年代の男性よりも子供なのだ。





「お下げ致します」

綺麗に飲み終えた紅茶の入っていたカップとショートケーキの乗っていたお皿を下げる。

さすが、礼儀作法などはきちんとしていて、いつも綺麗に食べてある。

生クリームの跡もない。ただ、残っているのはショートケーキの苺の葉の部分だけだ。



「ありがとう」

僕を見て軽く微笑んだ主人は疲れているのかそのまま、寝室へ向かって行った。



お皿とカップを片付け終わると、主人がいる寝室へと向かう。



ムダに大きな部屋には一人で寝るには大きすぎるベッドが1つ中心に置いてあるだけだ。

「失礼します…、ジュノ様、少しお眠りになられますか?」

ドアの前に立ち、そう聞いた。



だが、すでに布団に潜り込む主人は僕の話など聞いてはいないようだ。



「なあ、クン」

布団に深く潜り込んだまま、唐突に呟いたジュノ様。

「はい」

「クンは俺様の言うことなら何でも聞いてくれるよな」

「勿論でございます」

そう言うとジュノ様は布団から出て、僕の方を向き、緊張した面持ちになった。「…じゃあ、これからいう話は誰にも言うなよ」

「何でございますか」

「…うん…。俺様も、とっくに二十歳も過ぎたし、そろそろ恋というものを知りたい」

「はい」

「ずっと、この城で閉じ込められているような生活をしてきて…一度も恋というものを知った事がない…」

「跡継ぎなどをお考えに?」

「いや。そういう訳じゃないんだ。ただ単に恋というものを知りたいだけだ。跡継ぎなら俺には兄がいる…、別に俺が気にすることでもない…」

「そうでございますか、私に出来ることはございますでしょうか?隣国の姫をお連れいたしましょうか」

「いや…実は一人、思い当たる人間がいるんだ。まだそれが恋というものなのか分からないけど」

「なるほど、それは何方ですか。良ければお聞かせください」

「うん、まぁ。それは…」

そこまで言ってジュノ様は口ごもった。
何か言いにくいことなのだろうか。



「きっと貴方のお力になれます。どうぞ、お聞かせください」

催促するようにそう言うと、ジュノ様はこくりと頷いてから小さく呟いた。



「其は、お前だ…クン」




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