other parody

□in Kindergarten
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実をいうと、俺は今、一人の男に恋をしている。

彼の綺麗な瞳は澄んでいて、笑顔は美しい。

そんな、彼を初めて見たとき、ビビっと来るものがあった。

いわゆる、一目惚れというやつだ。

彼は、俺の弟であるチャンソンの通っている幼稚園の先生で、お世話になっている。

毎回、高校からかえるとすぐに幼稚園に直行する。

母さんに頼まれてっていうのも、あるけど、なによりも、ニックン先生に会うために。



自転車を走らせて、チャンソンの通う幼稚園へ向かう。

家からは、自転車だと、15分くらいでつくところに幼稚園はある。

俺は、学校帰りだというのに疲れなんて全く感じずに、自転車を漕いだ。



幼稚園へつくと、ふぅ…とため息を吐いて、門をくぐり抜け、幼稚園に足を踏み入れた。

「あぁージュノだー!」

外で、友達と遊んでいた、チャンソンは、俺を見るなり、近くへよって来て、ぎゅっと抱きついてくる。



「ジュノって言うな、お兄ちゃんって呼べって言ってるだろ?」

そう小さなチャンソンを抱き上げるとチャンソンは嬉しそうににっこり笑って俺に頬ずりをする。

そんな、チャンソンはとても可愛くて何をされてもゆるしてしまう。

俺を呼び捨てで呼ぶのにも、注意はしてるものの、可愛いから、ついつい許してしまう。

すこしの間、そんな可愛い弟とじゃれあっていると、後ろから、優しい声がした。

その声に一瞬で、心臓がバクバクと高鳴り出す。



「お迎えですか?」

そうニコリと天使のような笑みを見せて、いつもご苦労様ですという彼。

やばい、可愛い。



「いや…そんな」
そう、首を振ると、ニックン先生はニコリと笑って、ジュノくんはえらいですねと言う。



「そんな、こと…」

褒められると嬉しくって思わず笑みが零れた。

そんな時、今まで黙って俺たちの会話を聞いていたチャンソンが、いきなり口を開いた。

「ねぇーじゅのー、さっきから、しんぞー、ばくばくしてるよ?」

「ぅ…え!?」
思わず声が漏れる。

余計な事を!チャンソン…もう、呼び捨ても許してやらないからな。

そう、心の中でチャンソンに怒りながら、ニックン先生を目の前に焦る俺。

さりげなく、ニックン先生の様子を伺うと、彼は、笑顔を崩してはなくて少し安心する。

「はは、チャンソンくん、お兄ちゃんを困らせちゃいけないよ?」
そう、笑う彼の笑顔は、俺を更にドキドキさせる。



「せんせー、じゅのね、せんせいがすきなんだよー」

俺が軽く睨んでいることにも気づかずにチャンソンは、また空気の読めない発言をする。

はぁ、子供って恐い。

なんでも、言っちゃうんだから。

「ふふ、本当?」

冗談っぽく聞くニックン先生。

「いや…その…」

なんて言ったらいいか分かんなくてオドオドしていると、チャンソンが、
「じゅの、すきだよね?せんせーのこと」って言ったから、俺はただ、こくりと頷いた。

多分、俺の顔は赤くなっていると思う。
だって、こんなにも顔が熱い。
いや、顔だけじゃなくって…全てが。

そんな、俺にニックン先生は、ふふっと笑って、
「ありがとう、ジュノくん」
と微笑んだ。



その時、ぱっちりと視線が交差したものだから、慌てて視線を下へと逸らした。



チャンソンは、更に先生に聞く。

「せんせーも、じゅのがすき?」

そうチャンソンが聞いた時、初めて先生の笑顔が少しだけ崩れて、驚いた表情になった。

そのまま少し固まる先生。

「チャンソン、先生を困らせるなよ…」
そう俺が言うとニックン先生は、いえいえと首を振って、
にっこりと笑った。

そのあと照れ臭そうに笑って先生は言った。
「ジュノくん、好きですよ、かっこよくって…優しくって…」

その声はチャンソンにむけられたものでは、なくて俺に向けられた、ものだと感じた。

「そっかぁ…ぼくもー!じゅのだいすき!ね!じゅの」

そう、俺の肩に回した腕の力が強くなる。

チャンソンは無邪気な笑顔を俺に向けて胸に顔を埋めると一瞬で寝てしまったようだ。

その場に取り残された、俺とニックン先生の間には、なんだか、気まずい空気が漂う。



「チャ、チャンソン、寝ちゃったみたいなんで、帰ります!」

そう、言い残して、その場を早足で去る。

すると、少し離れた場所から声がした。

それは紛れもなくニックン先生のもので…



先生は、少し大きな声で、
「あしたも、会えますよね?待ってます、楽しみにして…」



そう言った。

俺は、恥ずかしくって、ただ軽く会釈だけをして、そのまま早く歩いた。

自惚れかも、しれないけど、
俺を好きだと言った先生の表情が、
待っていますという言葉が、
嘘じゃないような気がしてならなかった。



自転車での、帰り道。

チャンソンがいるというのに、その自転車は、いつもより軽々しく感じ、
今までよりも早く時間がすぎて行くような…不思議な感覚がした。





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