アイアンリーガー
□海蛇
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無機質な空間と、歪んだ人の心。あんな所で生まれ、育ったんじゃ、スポーツの本当の楽しさも、他者を大切に思う気持ちも、分かるはずがない。持てるはずがない。
マスクはオイル缶の取っ手を持つ手に力を込めた。
――本当にそうか? 俺は知らなくて当然の環境にいたのか?
……認めたくない。でも本当は分かっている。答えは……NOだ。
だってウインディは知っていたじゃないか。ダークがどんなに愚かな事をしているのか。だからダークプリンスを抜けた。
そして、マグナムも――
胸の中で何かが急激に膨れ上がり、マスクは苦しくなった。こういうのを息が詰まると言うのか。開けた空間と光を求め、彼はメンテルームのシャッターを開けて外に出た。
嫌なことに、空には月はおろか星一つなかった。港湾を隔てた対岸に、微かに街の灯が見えるのみ。穏やかに吹く夜風がせめてもの救いといったところか。
マスクはコンクリートの縁に腰を下ろし、海面を見下ろした。
黒くうねる様は、まるで歪んだ人の心のよう。そして、自己嫌悪に陥った自分の心のようでもある。
俺は知ろうとしなかった。何事も、自分で考えようとすらしなかった。ダークから与えられた設定に何の疑いも抱くことなく忠実に従い、そしてただ兄貴達を追いかけて。
だから何も知らなかったし、自分一人では何の力もなく。
マスクは吐き気を覚えて口をおさえた。
悔しかった。惨めでたまらなかった。
結局ダークから兄貴たちを救ったのは、俺じゃない。それどころか俺はなんの……
強い不快感が腹の中で暴れている。逆流しそうになる。
だが、折れたくなかった。
ルリーの笑顔を思い出す。
シルバーの面々を思い出す。
そして、手を差し伸べてくれたマグナムエースを思い出す。
マスクは残っていたオイルを一気に飲み干した。手の甲でぐいと口元をぬぐい、うねる海面を睨みつける。
……これで終わってたまるか。
無理に口の端をにいっと上げる。
見てろよ……
「借りは必ず、返す」
いつか、フィールドで。
――握り締めた拳が、震えていた……
END
マスクはここから走り始める……のだと勝手に妄想。