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□忠誠
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それは亡人にそぐわぬほどに真っ白な墓石だった。
かの王の命令により、礼を尽くして葬られた闇の帝王の墓標。
その前には思いがけずたくさんの花が供えられている。
今ではもう見る影もなかった皇帝の悲願を、覚えている者は多かったのだ。
闇に染まっていく皇帝の姿に嘆きながらも、何もできない己をさげすみ……そして、結局最後には裏切って、死神にすがった自分のように。
――主の目を覚まさせることも、家臣の忠誠の内。
後悔はしてない。だが己に言い聞かせた言葉が、まるで質の悪い言い訳のように心をさいなむ。
止めなければならなかった。無力と分かっていても、足掻かなければならなかった。
そのことにもっと早く気付いていれば、結末を変えられただろうか――
きっとあの方なら気付いて下さる。過ちを犯すはずがない……そう己に思い込ませて国内に目を向けなかったのは、他でもない自分。それが忠誠であると信じたかったが、それで全てが丸く片付くほど、人の心は単純ではないし、複雑でもない。
皇帝はもはや盲目となり、暴走して自滅した。
――自滅? 馬鹿な……
彼は首を振った。頭の中で渦巻く感情の断片達を振り払おうとした。ほとんどがこぼれ落ち、罪悪感だけが残った。
ああ、だが。
分かり切ったことだ。覚悟だってしていた。今更……そう、今更だ。墓標の前で己を振り返るなど、愚かしいことを。
彼は己の剣を墓の前に突き立てた。
ここへは“けじめ”を付けに来たのだ。さっさと終わらせてしまおう。待たせるわけにはいかない。
地面に座禅を組み、短剣を抜く。
街の者達にはこの後少々迷惑をかけることになるが、容赦してもらおう。
ドウエル様――
「今、参ります」
「待って!!」