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□暁のあと
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 時が過ぎ、かつては幼かった少女も、美しい娘となった。
 瓦礫の山に、花束を手向ける。ここ一帯は“象徴”として、“記念”として、当時のまま維持されていた。それを初めに提案したのは何処ぞの女好きな王様だった。彼は見目麗しい妃を迎え入れたにもかかわらず、時折顔を合わせては娘を口説いている。娘はそれが不愉快ではない。その王が本当はどういう男であるかを、よく解っているからだ。それは妃も同じのようで、王の行動は挨拶のようなものだと放っている。
 娘は今独りだ。共にいた黒き獣騎士は、既に高齢だったこともあり、再生を始めた世界を二年生きた後に大往生した。唯一の身内であった祖父も、先月他界した。こちらも大往生だった。血は繋がっていなかったが、本当の家族であった。
 瓦礫の山周辺には荒涼とした風が吹きすさんでいる。娘の金色の髪を翻弄し、去っていく。花束は飛ばされないように、瓦礫の隙間に入れた。
 ここを訪れるのは初めてではない。毎年仲間達と必ず一回は来て、こうして花束を手向ける。天駆ける賭博師の翼は本当に便利だ。世界中何処だろうと、行きたい所へあっと言う間に着いてしまう。
 瓦礫の下には、仲間が一人、眠っている。……多分。娘はその死体を確認していない。脱出する時、共にいなかった。そしてその後も、一度も姿を見ていない。
 あの時、雄々しき“鷲”と、幻獣の愛し子の力なしに脱出することは不可能だったと、娘は理解している。だから“多分”死んでいるという思いは、ただの願望でしかないというのも、自覚していた。
 そういえば傷だらけの賭博師がいつか言っていた。たとえ助かっていたとしても、姿を現さないのだから、自分達が知っているアイツはこの世に存在していないのも同じだと。娘はその通りだと思う。だからこうして花束を手向ける。
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