オリジナル

□君の跡
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 フェンスに囲まれた広大な敷地。
 そこには多種多様の大きな機械と、廃棄されたロボットの山があった。
 山の下の方で、彼は頭と右肩だけを出し、じっと夕暮れ空を見上げている。
 明日には溶鉱炉に投げ込まれ、ドロドロの金属になってリサイクル。再び何処かのロボットになる。
 たぶんこの体は同じことを何回も繰り返しているのだろう。もしかしたら捨てられるたびに同じことを考えているのかも。
 さて次はどんなロボットになるのやら。そんなこと知る由もないが。
 ふと側に影が立った。彼はかろうじて動く首を巡らせて目を向ける。
 少女だ。制服を着ている。歳は十代半ばくらいか。
「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだけど」
 彼が話しかけると、少女は驚いて彼を見下ろした。
「電源が入ってるなんて、珍しいわね」
「そうなの? そういえば皆しゃべらないな」
 聞こえるのは工場の機械音とカラスの鳴き声だけ。
「もしかして君は、不法侵入常習犯?」
「だってそこのフェンス、穴空いてるんだもん」
 彼は見ようとしたが、今の体勢では無理だったので諦めた。
「女の子が見て面白い物があるとは思えないけど」
 言っている側から新しいスクラップがクレーンで運ばれ、山を高くする。少女は少し下がった。
「ほら」
「いつものことよ」
 少女は動じない。
「何が楽しくてここに来るんだい?」
「楽しいわけじゃないわ。多感なお年頃にはいろいろあるのよ。……ねぇ、それよりさ」
「何?」
「なんで捨てられたの?」
「片足を無くしたから」
 彼の答えに少女は眉をひそめた。
「それだけ?」
「ご主人様にとっては大事だったんじゃない? それにあの人、新し物好きだし」
「……悲しくないの? そんな簡単に捨てられて」
「僕等ロボットにそういう感情はないよ。あったら世の中ややこしくなると思わないかい?」
 少女は答えない。厳しい表情でただ彼を見下ろす。
「ロボットは人の道具だからね。必要なくなったら手放されるのが運命さ。人には人の在り方があるように、ロボットにはロボットの在り方がある。その一つがこれってだけの話さ」
 少女は彼の傍らにかがみ、その冷たい頬に触れた。
「……でも、もし君が僕等を憐れんでくれるなら、僕の兄弟達を大切にしてあげてよ。自覚できないだろうけど、たぶん幸せだと思うよ」
「……うん」



 ――フェンスに囲まれた広大な敷地の中では、捨てられた無数のロボット達がリサイクルに回され、新しいロボットの一部となる。



END
平成18年4月発行のコピー本より。
意思有ロボットは浪漫です。
彼等が背負う悲哀も含めて。……って言っちゃあ不謹慎かしら。

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