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□子
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 二人は鬼だった。
 鬼の一族に生まれた、正真正銘の鬼だった。
 醜悪な姿をさらし、狂気ともいうべき獰猛さをその身に宿す種族。
 常に他をむさぼって生を重ねてきた、忌まわしき存在。
 二人も例に漏れず、そんな鬼だった。
 ただ奪うだけの存在。
 何も生まず、ただ自種の存続と、空腹を満たすことだけを望み、永らえてきた生き物。

 その二人の前に……連れ合い同士である男鬼と女鬼の前に、“一枚の羽根”が舞い降りた。

 小さな小さな赤子。その背にはやはり小さな翼を背負った、非力な生き物。
 鬼のそれとは全く異なる、白く柔らかな肌。
 二人はその生き物が世でなんと呼ばれているのか知っていた。
 天使、である。
 天界に住まい、世の秩序を保つ役割を持つ光の種族。自分たち鬼とは正反対の性質の一族。
 その赤子が今、男鬼の腕の中にいる。
 鬼の間には、一つの言い伝えがあった。

『天使を食した者には、永遠の命と力が与えらえる』

 実際一族の長は遥か昔に食べたことがあり、何百何千という齢を重ねた今でも若々しい姿をし、絶対的な力を誇示している。
 しかし天使はそう簡単に下界に姿を現すことはなく、甘く至極美味であるという天使の肉を喰える機会など無いに等しかった。
 ということは、二人にとってこの赤子はまたとない好機である。相手は赤子である故、それを二人で食べても長のようにはなれないだろう。しかしほかの若い衆に差を付けられるのは確かだ。
 鬼としての欲望が、二人の中で頭をもたげた。
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