幻想水滸伝

□無常、そして無情
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 白き竜と成長したかつての少年が、懐かしき以前の同僚達に囲まれている。
 皆、この時を待ちわびていたかのように、声をあげ、腕を広げ、フッチを迎え入れた。当時同じ見習いだった者達が、涙を流し、フッチと抱き合って喜びを噛み締めている。
 その輪に竜洞騎士団長が歩み寄ると、鮮やかなほどにザアッとフッチへの道が開けた。
 ひざまずくフッチ。ヨシュアが何言かを告げると、フッチは顔を輝かせ、深々と頭を下げた。そんな彼に周りの竜騎士達が声をかけ、頭や体を小突き、場が騒がしくなって、一旦落ち着いた人の花が再び盛大に咲いた。
 ――その様子をハンフリーは少し離れた所から眺めていた。
 このような光景は何度見てもいいものだ。フッチのことは心から良かったと思う。これで務めは果たした。さて、これからどうしようか    
 ふと、ヨシュアが人垣の中から這い出す如く抜け出してくるのが見えた。彼は誰かを捜しているのか、辺りを見回し……ハンフリーを見つけて軽く手を上げた。ハンフリーがそれに応えてうなずくと、ヨシュアは彼に歩み寄った。本当はハンフリーが行くべきなのだが、あの人の輪に近寄るのはためらわれたので、その場でヨシュアが来るのを待っていた。
 ハンフリーの前まで来ると、ヨシュアは「ありがとう」と深く頭を下げた。
「お前には感謝の言葉を尽くしても足りないくらいだ」
 ハンフリーは苦笑いを浮かべた。
「やめてくれ……俺は何もしていない。竜騎士に戻る決断をしたのもフッチ自身だ……」
「相変わらずの謙遜振りだな。だがフッチをお前に押し付けてしまったのは事実だし、フッチの決断含め、お前があの子のために尽力してくれたのは明らかだ。本当に。ありがとう……」
「分かった……分かったから、頭は上げてくれ……竜洞騎士団長に頭を下げられるのは……居心地が悪い……」
「あのなぁ……」
 ヨシュアは頭を上げ、少し不貞た顔でため息をついた。
「確かに私は団長だが! 恩を受けた相手に対して礼を言えない男ではないし、第一私はお前とは対等のつもりなんだぞ」
「……」
 歳にも歴然とした差があり、地位も全く違うというのに、この団長は平気でそういうことをハンフリーに言う。相変わらず凄い男だと思った。そんなヨシュアと友になれたのだから、光栄と言うほかない。もっともそれを素直に告げれば怒られるのは必至なので、口が裂けても言わないが。
「……それに」
「……?」
 突然ヨシュアの声のトーンが下がった。続きを話すのをためらっているのか、目線が伏せられる。
「ヨシュア……?」
「……お前に話しておきたいことがある」
 やがてそう告げたヨシュアの顔は険しいものだった  ――フッチを包む歓喜の渦が、ハンフリーの意識から追い出されるほどに。
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