幻想水滸伝

□剣
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 ささやかな仲間集めの帰り道。
 街道を中心に抱く森の中で、オデッサとフリックは奇妙な男と出会った。
 無造作に伸びた金色の髪と無精髭の男。歳は三十代くらいだろうか。腰には使い込まれている思われる一振りの……曲刀? を下げている。
 その者は帝国の兵士数人に囲まれ、武器片手に襲いかかる彼等相手に素手で応戦していた。殺意剥き出しの兵士相手に、だ。
 危なげなく確実に刃をかわし、足を払い、敵の勢いを利用して投げ飛ばし、手刀を叩き込み……しかし決して腰の物を抜こうとはしないし、体術を用いても強力な一撃を決めようともしない。
「……助けましょうか」
 見かねてオデッサが提案すると、フリックはあからさまに嫌そうな顔をした。
「わざわざいらん騒動を起こす必要ないだろ。たたでさえ俺達は天下に名立たるお尋ね者なのに。だいいち、奴さんが悪いのかもしれないし」
「そういうふうには見えないわ。行きましょ」
 言うが早いかオデッサは、己の細剣を携えて駆け出した。
「オデッサ! あーっ、もう!」
 仕方なくフリックも腰から片手剣を抜いて加勢に入る。
「なんだお前等!?」
 突然の乱入者に帝国兵は動揺した。その一瞬の隙を突くように二人は剣をひらめかせた。
「たかが二人の乱入でここまで動揺するなんて、なっちゃいねーなぁ」
 そうぼやきながらフリックは最後の兵を斬り捨てる。あっという間に片が付いた。
「仕方ないわ。地方の末端兵士だもの。今の軍はそんなものよ」
 だから二人だけで旅ができる。
「そうだけどさ。なんかホント哀しくなってくる。今のこの国をこんな奴等に任せてんのかと思うと」
「だから私達が頑張ってるんでしょう」
「そうでございますな」
 フリックは肩をすくめた。心の中で、本当はオデッサにあまり危険なことはさせたくないんだけどなぁ、と呟きながら。
 オデッサはフリックに苦笑いを浮かべて見せ、金髪の男に向き直った。
 男は無関心そうな顔で二人を見ていたが、オデッサと目が合うと背中を向けてさっさと立ち去った。
「あら」
「なんっだよ、礼なしか!」
「まあ、でも、助けを求められたわけじゃないしね」
「そりゃそうだが、礼儀ってもんがあるだろ。だいたいその腰のモンは飾りかっつーの!」
 腰の物……オデッサは男の後姿を思案げに見つめた。男は決して剣を抜こうとはしなかった。あの体さばきから、かなりの手練であることがうかがえる。しかし自ら戦おうとはしなかったし、決定打を与えようともしなかった。
 それに。オデッサは男の顔を思い出した。
 それに、あの人の目。
 確かに前のものを認識しているのに、何も見ていないような、虚ろな眼差し……
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