アイアンリーガー
□見えるもの見えないもの
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リュウケンは空に高々と上がったバットを目で追った。
バットは回転しながら放物線を描き……やがて海にぼちゃん。
その間メンバーの全員もリュウケンと同じように視線をバットに向け、落ちた後もしばらく海の方を振り返ったまま硬直していた。
「すまない……」
やがて、うつむきながら呟いたリュウケンの声を合図に、やっと周りは我に返る。
「いや……気にするな」
ピッチャーのマグナムが呟きに答えた。彼は苦笑いを浮かべながら軽く息をつく。
「僕、取って来る」
「あ、リュ……」
リュウケンの後ろでキャッチャーをしていたシルキーが慌てて声をかけたが、リュウケンは「大丈夫」とだけ答え、壁を飛び越えて消えた。
「……」
シルキーはまだ何か言いたそうな顔で、リュウケンを止めようとして伸ばした手を静かに下ろした。
「皆、ちょうどいいわ。休憩にしましょう!」
ルリーが電磁ネットの内側から叫んだ。それに応え、リーガー達は「はい」と返事をしてベンチの前に集まり、エドモンド、リカルドの二人からオイルを受け取って各々談笑に入る。
「あたし工場長呼んでくるね」
「ついでにタオルでも持ってきてくれ」
練習場を出ようとするルリーに叔父が声をかける。ルリーは手を挙げてそれに応えた。
「それにしてもびっくりしたよな。いきなりバットがリュウケンの手から抜けて飛んでくんだから」
ピックの呟きに、仲良しのパットが「そうだよなぁ」と相槌を打った。
「そのスピードといったら。でもどうしたんだろ。こんなこと今までなかったのに」
「どっか調子でも悪いのかな」
「さぁ? でも昨日の時点では工場長は何も言ってなかったと思うけど」
「大丈夫かな?」
二人の会話にピートが混ざる。
「気にすることないよ。リュウケンかなり丈夫だから」
とボビー。
「でもさ。いくら丈夫でも、実際に異常が出てたら話にならないだろ」
リンキーのツッコミにボビーは「ああ、そうか」と笑う。
「笑い事じゃないってぇ」
不満そうな顔でカールが非難した。本当に何か異常があったら、彼の言う通り笑い事では済まない。リュウケンが普段しないバット投げを現にしているのだから、その可能性は高い――カールはそう思って心底心配していた。
「大丈夫さ」
そんな会話にリカルドが、彼特有の意味深な笑みで言葉を挟んだ。リカルドがそう言うのだから本当に大丈夫なのだろうと、カール達は完全には不安を拭いきれないものの、納得した。
やがてリュウケンが体を濡らして戻ってきた。手にはしっかりバットが握られている。タイミングよくルリーと工場長もやって来た。
「ご苦労様、リュウケン」
言いながらルリーはタオルでリュウケンの体を拭いてやる。
「海水如きにリーガーの機体がやられることなんてないんだがなぁ」
出前の昼飯を食おうとしていたところなのに、等とぼやきながら工場長はリュウケンの胸を開けて、コードをハンディコンピューターに接続する。
「だって、バットが」
「あ、オーナー。それは、別になんでもないんです。心配かけてゴメン」
「本当? 本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「なら、いいんだけど……」
なんだかよく分からんといった表情を浮かべながらも、チェックを済ませ、工場長は「じゃぁな」と練習場から出ていった。
「リュウケン、お前のだ」
「ありがとうございます」
リカルドからオイルを受け取り、リュウケンはそれに口を付ける。
「リュウケン」
「? シルキー」
シルキーに向き直り、リュウケンは言葉を待つ。シルキーはちょっと照れたような顔で後ろ頭をかき、あのさ、と切り出した。
ちょうどその時。