アイアンリーガー

□海蛇
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 目を覚ますとそこは、田舎の町工場のようなメンテナンスルームだった。
 見慣れた光景ではない。しかし何処なのかは考えなくても分かる。
 シルバーキャッスルの基地。強制引退の騒動から助けられた自分達は、どうやらここでショックサーキットを外してもらい、丁寧なメンテナンスを受けたようだ。移動の途中で意識を失ってしまったっから覚えていないが、今現在の調子でよく分かる。
 辺りを見回すと、閉ざされた薄闇の中、隣りの充電ベッドに兄二人が休んでいるのがうっすらと見えた。

 ――良かった。本当に助かったんだ。ちゃんと三人揃って。

 ゴールドマスクはほっと胸を撫で下ろす。
 ……と、その時人間用のドアが開き、無機質な光が部屋に差し込んだ。
 入ってきたのは、シルバーキャッスルのオーナー・ルリー。
「……あら、起きてたの?」
「ああ……」
 とっさに何を言えばいいか分からず、マスクはそれ以上言葉を紡げなかった。ルリーが近付いてくるのをただ眺める。
「体の調子はどう?」
「あー……大丈夫……」
 そして礼を言わなければならない立場にあることに気付き、ありがとうと付け足した。
 少女はいいのよ、とにっこり笑う。屈託のない、純粋な明るい笑顔だ。つられてマスクも口元をほころばせた。
「ちょっと待ってね。今、オイル出すから」
 言うが早いか、ルリーは部屋の隅に置かれた箱に駆け寄った。
「あ、えーっと……お構い……なく……」
 使い方を間違えてはいないだろうかと心配になりながら、言い慣れていない言葉をかける。
「いいかいら、いいから」
 そう言ってルリーはオイル缶をマスクに差し出した。無下に断るのも悪い気がして、マスクは素直にそれを受け取った。
「ありがとう……」
「どういたしまして。多分エネルギー供給が完全じゃないと思うから、飲んだらまた休んだ方がいいよ」
 何せウチのベッドは旧式の中古だからね、とルリーは舌を出す。確かにとマスクは思ったが、口には出さずに苦笑いだけにとどめた。
「ゴールドアームとゴールドフットのオイルはそこに置いておいたから、もし起きたら渡してね。じゃ、オヤスミ」
「えっ、何しに来たんだよ?」
 踵を返したルリーに、マスクは慌てて声をかけた。今は、普通なら眠っている時間である。にも拘らずこの少女は起きていた。
 しかしここで何か用を済ませたようには見えない。
 マスクの驚きを受け、少女は首をかしげ。

「様子を見に来たのよ」

 さも当然のように答える。マスクは唖然として言葉を失った。
 夜・夜中、わざわざオーナー直々に、他所のリーガーの様子を見に来る、だ?
 前々から変なチームだと思っていたが……メンバーがメンバーなら、オーナーもオーナーだ。まったく大した奴等だ、シルバーキャッスルは。
「わざわざ悪いな、ありがとう。オヤスミ」
「はーい、オヤスミ」
 笑顔を残し、ルリーは出て行った。ドアが閉められ、再び闇が部屋を覆う。
 マスクは息をつき、オイル缶の栓を開けた。安物の低級オイルだ。妙な舌触りと後味が気になったが、不思議と不味くはなかった。

 なんて……なんて暖かな雰囲気。ダークには欠片もなかった。
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