アイアンリーガー
□砂上の楼閣
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荒野の片隅にスクラップが転がっている。
企画が統一されている骨格の一部が、かろうじてそれをリーガーだと認識させた。
手足はない。体はおろか、頭すら大きく破損している。
焦げた臭いが辺りに漂っている。回路がショートして飛び散る火花、流れ出るオイル。――破壊されてまだ間もない。
それを、マスクは呆然と見下ろしていた。
マスクがこの場に辿り着く少し前、視界に遠く喧騒と土煙があった。辿り着いた時には全て風に流されて消えていた。……スクラップを除いては。
「……」
震える指を伸ばす。
「触る、ナ」
羽虫の羽ばたきのような声。
「! まだ動けるのか、なら」
マスクはとっさに抱き上げようとした。
しかし。
「必要、ナイ」
スクラップはきっぱりと拒絶する。
「どうセ、スグに止マる」
だがマスクは引き下がらない。
「まだ間に合うかもしれないだろ!?」
まだ稼動している相手を見捨てらるはずもないのだが、やはりスクラップは頑なに拒絶する。
「タとえ間に合ったトシテも、修理費用ヲ用意デきナイ。オ前とてソンな余裕はなイだロウ、オ人好シ」
「っ、それは」
マスクは口篭もった。確かに言われた通りではあった。宿る木はおろか、下ろす根もない草のような現在の生活では、兄弟三人が生きていくので精一杯だ。
「それ二、動けルよう二ナッてモ、辿る末路は同ジダ。別の生き方ガデキたなラ、こンナことになってヤしなイヨ」
「……」
はぐれリーガー同士の諍いの果て。マスクにはその壮絶さを目の当たりにしているのだ。かける言葉が見つからない。
「オ前のこトハ知ってイルよ、ゴールドマスク。ダークを引退シ、兄弟で放浪の旅ヲシていル」
ギギギ、と歯車が軋むような音がした。どうやらスクラップが笑ったようだった。
「あの試合は良かったな。見ていて非常に楽しかった」
ナショナルチャンピオン決定戦のことを言っているのだろう。あの試合は、たくさんの人間やリーガー達の心に衝撃と変化を与えた。
あぁ、こいつもリーガーなのだなとマスクは感慨にふけ――
「なンの感慨もないケレど」
「!」
再び歯車が軋む音。
「こノ世ニハ、自ラ心を捨てテ生きテイるリーガー崩れがたくサンいる」
最早私達はリーガーではないのだよ。スクラップは笑った。