アイアンリーガー

□傘、開く
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 ルリーはしまったなぁと思った。
 雨が降ってきたのだ。天気予報では非常に微妙な50%という降水確率だったのだが、見上げた空は何処までも青かったので、大丈夫だろうと傘を持たずに出てきた。
 ところが今は衣服が濡れてしまうほどの雨である。書店で欲しい雑誌を手にしながら何かいい本はないかと物色している内に、空は様相を変えてしまったようだった。
 さてどうしようとルリーは思案する。携帯電話で誰かに迎えに来てもらおうかとも考えたが、これだけの為に呼び出すのもなんだか気が引けたので、真っ先に選択肢から削除した。
 となると余計なお金は使いたくないが、タクシーが妥当か。そう思ってしばらく道路を眺めていたが、空車タクシーがなかなか通らない。皆、急に振り出した雨に慌ててタクシーを捕まえているのかもしれない。
 バス停や駅はここから数分歩かなければならないし、降りた後もやはり歩かなければならない。駅ならタクシーを捕まえられるが、家までタクシーを使うほどの距離でもない。うーん、そこまでくらいなら迎えに来てもらおうか。でも結局今いる所から駅かバス停までは濡れるしかないのはどうしようもないわけで。
 ルリーはため息をついた。やはり誰かにここまで迎えに来てもらった方がいいかな……そう思い、携帯電話を取り出す。
 その時、ちょうど目の前に軽自動車が停車した。今若者に人気の車種だ。色は黒。免許を取ったらあの白が欲しいのよねぇなどと考えながら、ルリーが何気なく目を向けていると、窓が開けられ、驚くべき人が顔を覗かせたのだった。
「Miss銀城!」
「クリーツさん!?」
 元ダークプリンス監督のクリーツである。G3兄弟強制引退騒動の後に辞任し、姿が見えなくなっていたが……
「もしかして雨にお困りだったのではないかと思ってね」
 そう言ってクリーツは微笑む。そこには以前の陰険さは微塵もない。ルリーは彼も正しい心を取り戻したのだとゴールドマスクから聞いて知っている。
「えへへ、実は」
 ルリーは苦笑した。内心これは送ってくれる展開になるのではないかと期待。
「では送りしょう。乗って下さい」
 やっぱり! ルリーは破顔した。
「いいんですかぁ?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます!」
 クリーツが助手席を勧めたので、ルリーは喜々として乗り込んだ。
「すみません、助かりました」
「いいえ。通りかかったら姿を見かけたので、ちょうど良かったですね」
「はい。ありがとうございます」
 黒の軽はウインカーを上げて、颯爽と車の流れに入り込んだ。
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